口腔リハビリテーションの専門家、日本大学歯学部歯学科摂食機能療法学講座准教授の阿部仁子さんは、歯を磨く、テレビを見るなど、何か行為のついでにできる“ながらケア”を勧める。
「一つめは、歯磨きをしながらできる『歯ブラシマッサージ』です。歯ブラシの背の部分(毛先の反対側)を頬の内側に押し当てて、頬を外側に広げるようにマッサージしていきます」
続いては、「くちびる伸ばし」と「舌裏伸ばし」。テレビを見ているときや入浴中などに手軽にできる。
くちびる伸ばしは、下くちびると上くちびるを、親指と人さし指でつまんで引っ張るというストレッチだ。舌裏伸ばしは、口を縦に大きく開いて、舌先を上あごにくっつけるという舌のトレーニング。
「日ごろ口をしっかり使えていない人は筋肉が硬くなっているので、やり始めは頬や舌、あごに痛みを感じるかもしれません。ですが、続けていくとだんだん筋肉が柔らかくなり、痛みもなくなってきます」(阿部さん)
こうしたセルフケアとあわせて行っておきたいオーラルフレイル対策がある。「虫歯や歯周病をしっかり治して、かめる歯を作る」「自分に合った義歯を使う」ということだ。
多くの人が知っている「8020運動」。80歳で20本の歯を残す運動で、厚生労働省の歯科疾患実態調査では、2016年には8020を達成した人の割合が51.2%と半数を超えた。だが、菊谷さんによると、介護状態になったり認知症などの病気で療養したりすることで、80歳を過ぎたあたりから口の中の状態は悪くなる人がぐんと増えるという。
「虫歯や歯周病などがあるとかみにくくなり、軟らかいものを食べるようになる。その結果、筋肉が減ってかむ力が弱まります。ですから、まずは定期的に歯科で検査を受けて、必要に応じて歯垢(しこう)や歯石を除去する歯のクリーニングをしてもらうこと。一般的に推奨されているのは半年に1回ぐらいの歯科検診ですが、高齢になったらもっと受診回数を増やしてもいいと思います」(菊谷さん)