願いはかないませんでしたが、私も本当は大臣に辞表をたたきつけるような辞め方がしたかったんです。信念に反する命令を受けた時、「それには従えません!」と辞表をパーンと出してみたかったなあ……。

 話を戻すと、上司でらちが明かないようなら、さらに上のポストの人に訴えるのも手。最後は知事や市長に直訴するのもありだと思う。あるいはマスコミにリークし、「税金徴収はこれでいいのか?」と問題化する。「お前がリークしたんだろ」と言われないためには、表向きには上司と同じ行動を取り、マスコミから“たたかれる側”に回ればいい。悪者になりながら正義を訴えるというのは、これはこれで美学です。

 手っ取り早いのは、上司の命令に対して、「分かりました」「すぐやります」と言いながら、何もしない。僕も昔は、この手をよく使ったなあ。のらりくらりとかわしているうちに、定年になるかもしれません。

 どうしても命令に従わざるを得ず、差し押さえになってしまったら、差し押さえられても生きていける方法を考えて相手に教えてあげる。徴収業務の範囲を超えているかもしれませんが、信念に沿うやり方で仕事をすればいいのです。

 あなたは良い公務員だと思います。定年前の1年には、その時期だからやれることがたくさんある。組織にしがみつく必要もないし、自分の良心に従うやり方をすべきだと思います。残り1年を楽しんでくださいね。

週刊朝日  2019年5月3日‐10日合併号

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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