前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
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上司との関係に悩まない勤め人はいない… (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社
上司との関係に悩まない勤め人はいない… (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社

 文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、公務員からの「上司にたてつくより退職すべきか」という相談です。

*  *  *

Q: 地方税の徴収業務をしています。私は自主的な納付を手紙で呼びかけています。税金を払えない事情があると思うのです。でも、上司はすぐに預金を調べ「差し押さえしろ」と言います。私は他人の財布に勝手に手を突っ込むのは嫌なのです。国税徴収法では、滞納者の住居その他の場所につき捜索が許されていますが、私は絶対そこまでやりたくありません。定年まであと1年、上司にたてつくより、退職すべきでしょうか。(59歳・公務員)

A: なかなか重いご質問ですね。税金徴収は、行政を支える大切な仕事ではありますが、払えない人から無理やりむしり取るのはいかがなものかと思います。

 私も文部科学省時代には、やりたくない仕事ばかりさせられてきました。だから、気持ちはよく分かります。ただ、どんな組織のどんなポジションでも、自分の裁量の範囲はあるはずです。その中で自分なりにいいと思う方法で仕事をしてみては。

 大事なのは、公務員である前に一人の人間だという認識を意識的に持つこと。言われたことを杓子定規にやっているだけだと、無意識のうちに非人間的な感覚に陥ってしまいます。当たり前のように思えますが、役人の中にはとにかく法を盾にとり、決まったことを決まったようにやるだけで、血も涙もない輩(やから)がたまにいる。相手が人であっても、情けは存在しない。私はこうした役人を「法匪(ほうひ)」と呼んでいますが、あなたの上司も立派な法匪だと思う。

 どうせ辞めるなら、部下や後輩の前で、上司と大喧嘩して辞めたらいかがでしょう。それで差し押さえや捜索を止めることはできないかもしれないけど、組織に一石を投じることはできるかもしれません。「納税者だって人間です! 生きる術を奪っていいんですか!」と、上司を怒鳴り、最後にぱっと一花咲かせて、語り継がれる先輩になるのも悪くないと思いますよ。

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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