武蔵野赤十字病院栄養課課長の原純也さん(管理栄養士)はこう話す。
「本来は食べ物をのみ込む嚥下機能を少しでも回復させる訓練をしながら、適切な栄養摂取方法を選びます。このため、胃ろうを造設しても、必要がなくなれば閉じることもあります」
胃ろうを造設しても、大好きなお酒を味わうことはできる。80代男性は脳卒中の後遺症で嚥下障害が残ったため、胃ろうを造設した。
男性はサラリーマン時代、毎晩のように仕事で接待をしてきた。このため、いまでは夕食時、口腔(こうくう)内を清掃するスポンジにビールや日本酒をしみこませ、介護士に口の中をぬぐってもらうことを日々の楽しみにしている。
治療の選択時、生きることをあきらめようとする人は、その多くが「家族に迷惑をかけたくない」と言う。寝たきりの高齢者とともに、がん、あるいは筋ジストロフィーやALS(筋萎縮性側索硬化症)の神経難病の患者も、闘病しながら何度も「生きる意味」を自問自答している。
東京メディカルラボ代表取締役で病院の医師だった竹田主子(きみこ)さんは42歳でALSを発症した。7年目になる。ALSは全身の運動機能だけが障害を受け、筋肉が動かなくなる。2年間で生活のすべてに介助が必要になった。24時間の介護が必要になる。
ALSは進行すると呼吸の筋力も低下し、生命を維持するために人工呼吸器を付ける。調査研究によると、国内のALS患者は約3割が呼吸器の装着を選び、約7割は家族への負担などを考えて付けないと言われている。竹田さんも診断時からこのことを悩み続け、「自分がいなくなったほうが家族は幸せになる」と何度も死ぬことを考えた。
また、人工呼吸器を付けて生き続けることで、病状が進んで眼球につく筋肉まで動かなくなり、まったくコミュニケーションが取れなくなる可能性があることもとても恐れた。
だが昨夏、人工呼吸器を付ける選択をした。踏み切った理由は「いま、絶望感でいっぱいでも、技術が発達して意思を伝えられる装置や治療薬ができるかもしれない。人生何が好機になるかわかりません」と力強く話す。