医師でALS患者の竹田主子さんは学校での講義や地域の医療者向けの講演もする(竹田医師提供)
医師でALS患者の竹田主子さんは学校での講義や地域の医療者向けの講演もする(竹田医師提供)
この記事の写真をすべて見る
胃ろうの仕組み  (週刊朝日2019年4月26日号より)
胃ろうの仕組み  (週刊朝日2019年4月26日号より)
よりよく生き抜くための医療を考えるヒント10カ条(作成:福原麻希)  (週刊朝日2019年4月26日号より)
よりよく生き抜くための医療を考えるヒント10カ条(作成:福原麻希)  (週刊朝日2019年4月26日号より)

 近年、人生の最期をどう迎えるかが注目されている。医療現場を20年以上取材してきた医療ジャーナリストの福原麻希氏が、闘病イメージを考えるための事例を紹介。「逝き方の取り扱い説明書」の指針となる、よりよく生き抜くための医療を考えるヒント10カ条を考えてみた。

【イラストで見る】胃ろうの仕組みはこちら

 人工呼吸器や腹部にチューブを通して胃に直接栄養を送り込む胃ろうを延命のためだけに使うと誤解し、嫌がる人は多い。それらは病気の治療を目的に、一時的に生活の道具として用いられることもある。

 肺気腫を患い、酸素供給装置から鼻チューブ(カニューラ)で酸素を吸入する在宅酸素療法をしていた70代男性が肺炎で救急搬送されたことがあった。集中治療室で抗生物質の点滴が投与され、肺気腫による息苦しさを解消するため、一時的にのどを切開してチューブを通すタイプの人工呼吸器を装着することになった。だが、約2週間後、肺炎の治癒とともに人工呼吸器を外すことができ、元の生活に戻れた。

 別の事例では、認知症の進行による嚥下(えんげ)障害のあった70代男性が誤嚥(ごえん)性肺炎を起こして入院したところ、医師から胃ろうの造設を勧められた。医師が妻に「肺炎を治療するため、一時的に栄養摂取の方法としてつくったほうがいい」と説明したが、妻は「胃ろうをつくると、口から食べられなくなる」と反対した。

 翌日、妻から「お任せします」の言葉が出たので、胃ろう造設の手術をして栄養補給を始めるとともに、言語聴覚士という医療職種による嚥下訓練(リハビリテーション)も実施された。その結果、男性は豆腐などののみ込みやすい食べ物は口から、必要な栄養量の確保は胃ろうから補うことになり、肺炎の治癒とともに退院した。

 過去、胃ろう造設の是非が社会で議論になったときは、口から食べられなくなった場合、意識が低下した人も含めてつくっている病院があった。それが、メディアを通して「胃ろうは必要ない」という誤解が生まれ、胃ろうへの抵抗につながった。

次のページ