いまは、介護保険と重度訪問介護の制度を併せて使い、ヘルパーの介護を24時間受けている。意識や知能は保たれ、視覚も聴覚も正常なため、2人の息子の子育てのほか、仕事は医療コンサルティングや学校の講義をしている。人工呼吸器を付けるために気管切開をしていて声を出すことができないので、あらかじめ原稿を作り、ヘルパーに代読してもらっている。
講演の中で竹田さんはこう言う。「医師の中には、末期と決めつけて緩和ケアのレールに乗せてしまう人、医療について偏った信念をお持ちの人もいます。医師の説明次第で、患者に治療を受けない決断をさせることも可能です。医師と信頼関係を築けないときは、迷わず変えましょう」
たいていの医師は、疾患ごとに学会等が定めたガイドラインにのっとって治療する。だが、時折、「もう終末期だから」「もう高齢者だから」と治癒が望めない病気に対して、医師が先にあきらめてしまう例を取材の中で聞くことはある。
近年、人工呼吸器を付けても外せるようになったことで、医師から「そろそろご家族で考えましょう」と切り出されることもある。
特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会副理事長で、実母を12年間介護していた川口有美子さんは「『自分がこれから生き続けても大丈夫か』は介護の問題、生活費、自分が愛する家族の幸せなどを考えて決めていくことになります。社会福祉制度を使って介護をしてもらうことができれば、家族の時間を制約せず、家族の幸せにもつながり、患者も気兼ねが減る。難しい病気になったとき、治療を受けられるかどうかは、国の社会保障制度によるということです」と話す。
当初、延命治療はイヤだと言っていた母が人工呼吸器を付けることを選び、川口さんもそれを支援したが、6年目、体が自由にならないままの母を見続けて「安楽死」が必要と考えていたという。でも、葛藤とジレンマにもがきながら、最期まで見送ったとき、「こういう生もあるんだ」と気付いたと話す。