東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
この記事の写真をすべて見る
勝利の船出、ソフトバンクの新人・甲斐野 (c)朝日新聞社
勝利の船出、ソフトバンクの新人・甲斐野 (c)朝日新聞社

 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が、開幕戦でプロ初勝利をつかんだある投手について言及する。

【写真】ソフトバンクの新人・甲斐野投手

*  *  *

 プロ野球が開幕した3月29日はラジオの解説でソフトバンク−西武戦(ヤフオクドーム)に行ってきた。ソフトバンクのドラフト1位・甲斐野央が4−4の延長十回から登板。2回を1安打5奪三振と好投して、チームはサヨナラ勝ち。開幕戦でプロ初勝利を手にしたことは本当に大きい。

 工藤公康監督が何よりホッとしていることだろう。新人投手をどう軌道に乗せてあげるかは非常に難しいからだ。この試合も開幕投手の千賀が自己最速の161キロを記録するなど好投して6回無失点。七回まで4−0で勝っている展開で、甲斐野を使うかどうか注目していたが、昨年、チーム最多の31ホールドを挙げた加治屋を使った。昨年終盤から少し調子を落としている右腕をあえて起用したが、山川に満塁弾を浴びてしまった。逆に甲斐野を出すには厳しい状況となっただけに、工藤監督も祈るような気持ちで送り出したと思う。

 だが、2回を完全に抑えたのだから、勢いに乗れる。しかもこの好投は、女房役の甲斐が導いたと言ってもいい。登板した延長十回。前の打席で満塁アーチを放った山川をいきなり迎えたが、甲斐は3球連続フォークを選択して空振り三振に仕留めた。ただでさえデビュー戦で力が入るところで、甲斐野のはやる気持ちを抑えたのが、甲斐の出したフォークのサインだった。投手心理として、直球から入るとどうしても力む。一方、フォークやカーブなどの変化球を投げることは、腕を柔らかく使うことにもつながる。これで本来の力を出せた。

 ルーキーはプロの世界で自分の何が通用して、何が通用しないかは、結果が出てはじめてわかる。だから、好スタートを切れれば、自信はついていく。先発投手であれば、投球フォームを見て、どんな球場のマウンドがいいか、相手の力量も見て起用できるが、救援投手はそうはいかない。その中で甲斐野は前向きになれる投球をした。その自信をさらに増幅させるように、工藤監督は2日後の3月31日に、今度は守護神の森につなぐセットアッパーで迷わず起用した。

次のページ