

西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。死ぬまでボケない「健脳」養生法を説く。今回のテーマは「粋に生きる」。
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【ポイント】
(1)人情の表裏に通じていることが認知症予防に
(2)粋とは「垢抜して、張のある、色っぽさ」
(3)粋に生きれば、おのずと認知症からは遠ざかる
これは私の持論なのですが、粋に生きている人は認知症にならないように思うのです。
「粋」が何かについては哲学者、九鬼周造さんの著書『「いき」の構造』(岩波文庫)に詳しいのですが、まずは広辞苑で調べてみます。二つの説明があって、ひとつは「人情の表裏に通じ、特に遊里・遊興に関して精通していること」とあります。
人情の表裏に通じているというのは、コミュニケーション能力に長けていることの表れですよね。周りの人たちとの活発なコミュニケーションが認知症予防につながることは、よく知られています。
円滑なコミュニケーションのベースにあるのは思いやりの心です。己の生きるかなしみをいつくしみ、相手の生きるかなしみを敬うということでしょう。前頭前野で分泌する神経伝達物質のセロトニンは思いやりの心をもたらすものであり、逆もまたしかりです。思いやりの心が前頭前野を刺激して、セロトニンの分泌を助ける。それが認知機能の向上に寄与するのです。
「粋」についてのもうひとつの説明は「気持や身なりのさっぱりとあかぬけしていて、しかも色気をもっていること」というものです。これは九鬼周造さんの見解と重なります。九鬼さんは「いき」を構成するものとして、「諦め」「意気地」「媚態」をあげ「いき」とは「垢抜して(諦)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」のことだと定義しているのです。
垢抜けているというのは、いくら魅力があるとしても(例えばとても魅力のある女性に対しても)、それを最後まで追い求めればよいというのではなく、場合によっては諦めることも必要だというのです。そして、その諦め方も全面撤退だけが能ではなく、好位置をキープして次なるチャンスを待つという柔軟性を備えているのです。