「相続人が、残高証明書をとりに銀行に行って初めて銀行は死亡の事実を知ります。残高証明書をとらない人もいる。財産評価の必要がない人です。名義人の財産が基礎控除以下の場合は名義変更しないかぎり銀行口座は生きたままなんです」

 となると、名義人は亡くなっているのに、没イチがその口座を使うことができる。残高が少ない場合は、見逃してしまう銀行も少なくないようだが、後から法律上問題になることがある。

 では、亡くなる前に預金をおろす、あるいは、名義変更するのはどうか。

「実際に葬式費用など、当面必要な資金を名義人の通帳から亡くなる前におろす人も結構います。キャッシュカードを持っていれば1回50万円まで引き出せます」(寺西さん)

 せっせと毎日通い、1週間で350万円おろす。意外とこういう人は多い。

「ただしおろした現金は課税対象分として申告します」

 寺西さんによると、避けるべきは亡くなる前に行う名義変更という。

「もしそれを相続人がやると、隠したことになり重加算税がかかり、いわゆる罰金請求です」

 とはいえ財産が基礎控除以下の場合は、相続税がかからないため問題ない。

「基礎控除は3千万円に相続人1人に対して600万円あります」

■没イチの落とし穴(4) 家の名義変更、もたつくと面倒になる

 没イチになった瞬間から死亡診断書の提出に始まり、社会保険などの手続きに追われる。亡くなった人の保険や年金の加入状況によって、提出書類も異なる。気を付けたいのが、提出期限。たとえば遺族年金は5年の請求期限を過ぎるともらえない。

「役場では行く先々で次の指示をくれた。遺族年金をもらえるというのも役場で知りました」(没イチ歴8年の玉置憂子さん)

 注意すべきは、不動産の名義変更(相続登記)だ。相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書、住民票、遺産分割協議書などが必要になり、もたつくと面倒になる。というのも、子どもや孫など直系家族が増えると、その人数分の書類を集めるのに手間がかかる。人数が増えれば兄弟姉妹でトラブルになる可能性も高くなる。生前にやれば贈与税の問題が出る。

 自動車の名義変更も手間がかかる。軽自動車と普通自動車で手続きも対応窓口も異なる。名義相続人が決まっている普通自動車の名義変更の場合、戸籍関係の書類だけでなく遺産分割協議書なども必要になる。離婚して疎遠であっても子どもがいれば確認が必要になる。電話や光熱費などの公共料金の名義変更も面倒だ。没イチは、大変なのだ。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2019年2月22日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
【6月26日(水)23時59分終了!最大19%OFF】いつもAmazonで買っている水やドリンクがもっとお得に!「飲料サマーセール」