しかし、タバコを吸っている患者さんは血流が悪いために、白血球をスムーズに運ぶことができません。このため、歯ぐきの腫れはほとんど起こりません。気づかないまま歯周ポケットがどんどん深くなり、その奥で歯周病が進むことが多いのです。
■加熱式タバコでも歯周病になりやすくなる?
さて、同じことが加熱式タバコで起こるかどうかは、はっきりしません。加熱式タバコの多くは有害物質のタールが少ない、あるいは発生しないといわれています。この点が健康にいいといわれていますね。しかし、ニコチンなどほかの有毒物質は従来どおり、含まれています。
「加熱式タバコの普及により、歯周病の症状を訴える患者が増えた」と言っている歯科医師もいます。タールは有害物質である半面、抗炎症作用があるため、「通常のタバコを吸っているときはこの抗炎症作用が働き、歯周病による歯ぐきの痛みなどが抑えられていたのだろう」という考え方です。
詳細については今後の研究を待つ必要がありますが、タバコはからだに確実に悪いものですし、寿命も短くしますから、できるだけ本数を減らすか、やめるべきでしょう。
実は私自身も歯学部生の頃からかなりのヘビースモーカーで、タバコをやめるのに苦労しました。やめるきっかけは大学を卒業し、初めての就職先となる歯科医院の院長先生に「一緒に禁煙しよう」と言われたこと。院長命令なので断れず、勤務前日には残っていたタバコをすべて吸い尽くし、翌日からは一本も吸えなくなりました。1年ほどはつらくて、つらくて、火のついていないタバコをしょっちゅうくわえていたことを覚えています(ちなみに一緒に禁煙を誓った院長先生はあえなく、脱落しました)。
今は禁煙外来を利用してやめる方法もあり、いい時代だと思います。
このほか、歯周病を悪化させるリスクには女性ホルモン(妊娠中や更年期)、糖尿病(次回に詳細)、運動不足、偏った食事などさまざまなものがあります。そして、悪化要因を取り除くことで明らかに歯周病はよくなりますので、思い当たるものがあったら歯科医師と相談のうえ、できるだけ減らすことを心がけましょう。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演