奥田民生との「父」も同公演を契機に作られた。母を慕う曲はたくさんあっても、父を描いた歌は少ないという点に着目。矢野は家族の間でしか見られない父の姿や、子への思いを詞にした。矢野のピアノと奥田のアコースティックギターだけのシンプルな演奏。矢野は“奥田寄りでも矢野寄りでもない、ふたりのアーティストがひとつのものを作った印象”と語る。

「大人はE」は松崎ナオ作詞、作曲の「大人サンバ」を矢野がリアレンジ。それに応え、松崎は歌詞を改変している。演奏では、松崎がソロとは別に活動しているバンド“鹿の一族”が参加。ヘヴィーなロック・サウンドと矢野のパワフルなピアノが聴きどころだ。表題や歌詞から忌野清志郎への愛もくみ取れる。

「横顔」は、大貫妙子のカヴァー。矢野がライヴなどで何度も演奏してきた曲だ。かつて筆者が制作を手がけたもののまったく売れず、大貫を失望させたアルバム『MIGNONNE』の収録曲だ。矢野は同作の「海と少年」を採り上げるなど、早くから大貫の才能を評価していた。再会した片思いの人が、自分を覚えていてくれなかったことをテーマにした歌だ。大貫と矢野の個性の対比を見せ、締めくくりのユニゾンでは“女の友情”を浮き彫りにする。

「Rose Garden」は津軽三味線の上妻宏光との共演。矢野が手がけた中でも最も“とんがった”曲で、前衛志向によるジャズ・アレンジのもと、上妻はベンド奏法なども駆使し、矢野もアグレッシヴな演奏を繰り広げ、スリリングな展開を見せる。

「ただいまの歌~ふたりぼっちで行こう ver.~」は、タブラ奏者のU―zhaan、ラップの環ROY、鎮座DOPENESSとの共演。エキゾチックなリズムに透明感のある矢野の歌声とピアノが調和し、気分がくつろぐ。

 平井堅と共演したのはチャプリン作曲の「Smile」だ。深澤秀行の斬新なトラック・アレンジをバックに、平井は伸びやかな歌を聴かせる。矢野はいつもの“矢野節”だが、ピアノは律義な正統派による。

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