「猫の顔から分泌されている『フェイシャルフェロモンF3』に似た化合物を人工的に合成したもので、猫にとって副作用がなく、気軽に試すことができます。効果があった、という報告も多いです」
猫は病院に行くこと自体がストレスになることもある。猫がまだ若いうちから、キャリーにストレスなく入るように慣らす方法や、体のどこを触られても嫌がらないための方法なども行動診療では指導している。こうしておけば高齢猫になってからの通院ストレスを軽減することができる。
薬物療法についても気になるが、先にも述べたとおり、現在、「認知症」の対処に猫に認可されている薬はない。しかし、藤井さんは、そのことを飼い主に説明した上で、人間の「心の病」にも使われる薬を処方することがある。
その一つが、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれるタイプの抗うつ薬だ。このタイプの薬は、脳内に神経伝達物質「セロトニン」の量を増やす働きがある。猫も人間と同じく、セロトニンが減少することで不安を感じたり、落ち着きがなくなったりすると考えられている。
「またSSRIとは別のTCA(三環系抗うつ薬)というタイプの薬もセロトニンを増やす作用があります。これらのどの薬にも副作用が報告されているので、ネットなどで安易に購入するのは大変危険です。必ず獣医師の指導のもと決められた用量を守って投薬するようにしてください」
ちなみに、セロトニンは日光を浴びることや運動することでも分泌が促進されると考えられている。朝や昼間に暗い部屋で寝てばかりいる猫なら、日なたぼっこができる場所を用意したり、日中遊んであげたりすることも有効だという。
読者には、今問題行動に困っている飼い主だけでなく、将来に不安を抱いている人もいるだろう。認知症予防には知育玩具を使った「脳トレ」がおすすめだ。
ボールを転がすと中に入ったキャットフードが出てくる玩具や、卵のパック容器にフードを入れ、猫にすくいあげさせてもいい。高齢になってからだと遊び方がわからず反応しない場合もあるので、子猫時代からこのような遊びをさせるといい。