猫の本ばかりを集めた本屋「キャッツミャウブックス」が、昨年8月、東京の世田谷にオープンした。猫と本とビールの好きな会社員の安村正也さんが、店を構想してから開店するまでを、ノンフィクション作家の井上理津子さんが書いている。その本は『夢の猫本屋ができるまで Cat’s Meow Books』(集英社、1700円/税別)
猫の本といっても、写真集、絵本、しつけの本など多様な品揃えに驚かされる。
「かわいい本だけではなく、猫の博物誌、文化史のように、さめた目で猫を見ている本も多い。小説の1ページだけに猫が登場するものもある。安村さん、よくぞ見つけたな、と思います」
と井上さんは言う。
最初は安村さんの話を一冊にまとめるつもりだったが、進めるうちにノンフィクション作家の本領が発揮され、本屋講座の講師、自宅兼店舗の設計者、保護猫の団体など、30人以上に話を聞いていた。
店には保護猫の5匹の猫店員がいる。空気を読むのか、不思議と本を傷つけることはないそうだ。店内でビールやコーヒーが飲めるので、猫好きのお客さん同士で会話が始まることもある。犬派の井上さんには新鮮な光景だった。
「猫族は面白くて、初対面でも、誰かが口火を切るとすごく話が弾むんです。自分の猫の写真を見せ合って、かわいいとか、うちの子もそうなのとか、幸せそうな会話が続いていく。犬派はこうはならないのでは」
井上さんは夕刊紙の連載で、首都圏の新刊書店と古書店、約250軒を取材した経験を持つ。仕入れ先、品揃え、店舗経営など、蓄積があるからこその視点が各章に生かされている。例えば、本の陳列だ。
猫の本屋といえば、多くの客はかわいい猫の本を期待して来店する。そういう本もある一方、安村さんは、あまり売れそうもない文化史的な本も目立つところに並べている。井上さんによると、通常、店主のカラーは端のほうで控えめに主張している場合が多い。