感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。
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少し化学のことは忘れて、歴史の話をしよう。
ワインが初めてできたのは今から数千万年前といわれる。おそらく、天然のブドウが偶然アルコール発酵されたというのが、その起源であろう。偶然がもたらした産物というわけだ。
人間の手で、ワインが意図的に製造されるようになったのは、今から1万年前くらいと考えられている。トルコのチャタル・ヒュユク、シリアのダマスカス、レバノンのビュブロス、あるいはヨルダンで紀元前8000年ごろの石器時代の地層からブドウの種子が見つかっている。ただし、それが「栽培されたブドウ」なのか、「野生のブドウ」なのかはわかっていない。
酒類の原料はたくさんある。コメ、麦、そしてブドウ。さまざまな生物がアルコール発酵によって酒になる。しかし、最も原始的な酒は果実酒だったと考えられている。採取した果物を貯蔵していたら、そこで発酵がはじまり自然にアルコールとなった。それを飲んだ人間が、果実酒を楽しむようになったと推測されている。そして、その果物のひとつがブドウであり、ワインはそうして作られたのであろう。
■発酵食品の多くは「カビ」のおかげでつくられている
ワイン酵母はSaccharomyces cerevisiaeという名前の真菌だとすでに述べた。真菌とはいわゆる「カビ」のことだ。カビというと、ひょっとすると悪いイメージをお持ちの方もおいでかもしれない。しかし、実はカビは、人間にとってよいこともたくさんしている。発酵食品の多くは「カビ」のおかげで作られているからだ。