「『恋人ができた』と娘の私に言うのが恥ずかしかったのでしょう。でもこの先、父とどうコンタクトをとったらいいのか、考えるだけで頭が痛いです」と、英子さんは深いため息をつく。

「いまのシニア世代の方々は、働き盛りのころにバブルを経験しています。若いときに恋愛体質を鍛えられていますからね。定年後も華やかな時代の勢いをそのままキープし続けている『ザ・現役』なシニアはたくさんいらっしゃるんです」と、恋人・夫婦仲相談所の三松真由美さんは言う。本人に枯れている意識はない。ゆえに配偶者に先立たれたりした場合、新しいパートナーを求める人も多い。

「ただ、自分の子供には『まだそんなこと言ってるの?』『色ぼけ?』といった言葉でなじられるかも……という負い目もあるわけです。だから新しい恋愛が進行していてもなかなか切り出せないのですが、シニアこそ本気の恋人ができたときは早い段階で子供には紹介しておくべきです」

 物事が相当進んでから相手を子供に紹介するのは、やはりもめ事の原因になる。

 子供からしてみれば、「今の今まで自分とは関わろうとしなかった人」が急に乗り込んでくる印象になり、当然のことながら「財産狙いの人かも」という疑心暗鬼が生まれてしまうからだ。

 確かに、多額の退職金狙いで近づいてくる人間もいるかもしれない。だが中には、配偶者をなくしたもの同士、純粋に新しい人生を共に歩んでいきたいという人たちも大勢いる。

「その場合、再婚前に関係者で集まって、財産に関する話をクリアにしておくというのもひとつの手です」

 と弁護士の比留田薫さん。

 そして、「その家の財産に関しては、子供にすべていくように遺言を作成してもらいますよ。また配偶者が亡くなったときに遺留分(法律上取得することが保障されている遺産)の請求もしません。それは結婚後すぐに家裁で手続きをしておきます。お宅の財産に関しては一切関わりませんので、私たちは結婚させていただきますよ」というところまで意思表示をするのだ。

「そこまできちんとやれば、“財産狙いの人”として反対される部分は減ると思います。ただ、一緒に暮らすパートナーとして生きていくのであれば、籍を入れずに『事実婚』という形を選ぶこともできます」

 籍を入れて家族になれば、それぞれの親族とのつきあいも無視はできない。そこに「そういう面倒くさいことだけは遠慮します」というのは通用しない。

「総合的に考えて、婚姻に関してはどうしても必要かどうか十分に検討してから行うようにしたいですね」(比留田さん)

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