元エースで監督経験もある東尾修氏は、リーグ優勝した西武ライオンズの強さを解説する。
* * *
私が現役時代に所属した西武ライオンズが2008年以来のリーグ優勝を果たした。メディアの企画で辻監督とも対談する機会があったが、非常に明るく昔話にも花が咲いた。
1986年の日本シリーズ。広島相手に第8戦までもつれた末に日本一となったが、第4戦まで1分け3敗。第5戦で工藤公康がサヨナラ打を打ってようやく1勝を返した。再び敵地の広島に戻る。その際に「また行くのか……」と少々あきらめムードが出ていたことも話題にのぼった。
辻監督は西武時代に広岡達朗さんや森祇晶さん、ヤクルトで野村克也さん、中日コーチ時代には落合博満さんといった実績ある監督の下で野球観を磨いた。その監督たちは、いずれも1点を取って投手力を中心としたディフェンス力で勝機を見いだした。どちらかといえば、辻監督もそういった野球のほうが得意なはずだ。
しかし、今年の西武は「5点取られても6点を取る野球」に徹した。辻監督に聞くと「それが勝つための一番の近道」だという。チームの投打の力関係を的確に見極め、大量得点を挙げるために、選手をサインで縛ることなく、自由に打たせた。
ただ、そこに足があったから得点力は倍増した。ランエンドヒットの多用も目立った。カウント2-2でも、走力が足りない走者でも、とにかく走る。走ることで、相手は走者にも警戒がいく。三振併殺のリスクを背負ったベンチの信頼、勇気は、選手にも伝わる。走者を警戒すれば、打者への配球は速球の割合が増える。相乗効果を生んだ。