認知症やその疑いのある人が行方不明になったとき、家族だけで捜そう、翌日まで待ってから警察に届けを出そうとする人がいる。だが、調査結果の「死亡者の約4割が当日亡くなる」「生存者は2日目までに他県を含めて約9割見つかる」可能性は、当日の警察と地域を巻き込んだ捜索が、いかに重要かわかる。
調査論文の著者で、研究所の福祉と生活ケア研究チームの菊地和則さん(社会福祉士)はこう話す。
「普段移動する範囲より遠方で見つかる人は、公共交通機関やタクシーに乗った可能性がある。その場合は周囲の目に触れ、保護されやすくなると考えます。また、認知症が軽度な場合は身の危険を回避しながら歩き続けますが、重症だと行方不明後すぐに事件や事故に巻き込まれる可能性があるのでしょう」
溺死は、生活圏内の池・川・用水路などでの事故が考えられる。低体温症は寒い地方だけでなく、歩き回って身体が疲弊して体温が奪われることでも起こる。
社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センター研究部の永田久美子部長はこう指摘する。
「雨風をしのぐため、店舗の裏側や資材置き場、神社の境内で見つかった人もいます。歩き疲れてひと休みするとき、人目につかないところに入るからでしょう」
人気のない藪の中や、自宅敷地の裏側で遺体が見つかった事例も。認知症の人は捜索者が思いも寄らぬ場所へと入り込み、出られなくなっていることもある。
身元不明者が病気や外傷で病院に運ばれた場合、病院が役所に生活保護を申請することが多い。この際、生活保護課の身元不明者リストに名前が載ることもある。高齢者施設が地域の一時救護施設に指定され、保護されることもある。警視庁は毎年9月、身元不明・行方不明者相談所を設置している。
認知症の人が外を歩くことはこれまで「徘徊」と呼ばれ、あてもなくウロウロ歩き回ると思われていた。しかし、実際は違うと考えられている。