認知症による行方不明者が増え続けている。早期発見や行方不明の予防のため、本人や家族だけでなく、地域の住民や事業者も取り組めることがある。医療ジャーナリストの福原麻希氏が、全国調査で明らかになった実態などをもとに報告する。
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神奈川県内に住む80代女性は今春、昼2時ごろに家を出たきり姿が見えなくなった。自宅からわずか200メートル先のコンビニへ出かけたはず、だった。
女性は軽度の認知症があり、要介護2(日常生活の動作で部分的な介助が必要)の認定を受けていた。外出時のカバンには、運転免許証を返納したときの運転経歴証明書と夫の名刺を入れている。普段はGPS機能つき携帯電話を持ち歩くが、この日は近場への外出のため、置いていった。
警察庁によると、2017年の行方不明者は約8万5千人。うち認知症(またはその疑い)の人は約2割の約1万6千人。9割は70歳以上だった。470人の死亡が確認され、200人余りは生死不明。「どこかで生きていて」。そう願い続ける家族が各地にいる。
行方不明者は「名前も住所も言えないほどの認知症」と思うかもしれない。しかし、東京都健康長寿医療センター研究所の「認知症の徘徊による行方不明者の実態調査」をみると、そうとは限らないとわかる。
認知症の進み具合の評価法「FAST」でみると、論文で分析対象となった行方不明者の4分の1は、7段階の3以下(正常と認知症の境界状態以下)だった。
つまり、認知症と診断される前の段階から行方不明になる可能性が明らかになった。
論文では、生存者と死亡者に分けて分析しており、以下の三つの実態が明らかになった。
(1)生存者は普段の移動範囲より遠く(含む他県)で見つかることが多い。2日目までに約9割が見つかった。死亡者は生活圏内で見つかる事例が半数ほど。推定死亡時期は当日約4割、4日目までで7割に達した。
(2)死因は溺死約4割、低体温症約3割、事故約1割、病気約1割だった。
(3)見つけた人は捜索関係者が半数、それ以外の偶然見つけた人が半数だった。