発展する場所としては「公園のトイレ」「公園内の植え込み」など無料の場所もある。昔は出会える場所が少なかっただけに公園は重宝された。戦後の混乱期、東京の上野公園は「男娼の森」と呼ばれ、この世界の「聖地」だった。

 有料系ハッテンバの重要なスポットとしては、成人映画館を忘れてはいけない。すべてがハッテンバだったわけではないが、同性愛者が集う映画館というのが各地にあった。多くの人が集まる場所なので、同性愛者にとっては、自分の好きなタイプの男性を選べるメリットがあった。

 まったく事情を知らずに入館した私の友人は、想定外の体験をしたという。

 暗い劇場。どこからともなく人が近づいてきて、「ハーハー」と耳元に荒い息づかいを感じたというのである。彼はゲイではなく、「誘い」を断ったというが、「いやいや、びっくりしたよ。突然だったからね」と半分うれしそうに話をしていた。

 新宿や上野とともに「聖地」とされる浅草にはいまでも「○○会館」という建物がある。中に入って取材をしたことがあった。「ようこそ」と出迎えてくれた経営者の男性は筋骨隆々で、圧倒されてしまった。「体を鍛えないとね」。館内にあるバーベルを指さしてニヤリ。かすかに汗のにおいを感じた。なぜか窓がなかった。理由は教えてくれなかったが、外から監視されるのを警戒したのだろうか。

 ハッテンバには隠語もさまざまある。体が太めで毛が濃い人は「クマ系」。そういうタイプが好きな人は「クマ専」。老けた人を好む人は「フケ専」である。同性愛に興味がない人は「ノンケ」。誘われて困ったら、「ぼく、ノンケです」とさりげなく断った方がいいだろう。

 ラシントンパレスは、地下鉄副都心線の工事などに伴う再開発で2004年に解体が決まり、いまはビジネス系テナントビルになっている。スカイジムに集まっていた人たちはどこへ行ったのだろうか。

週刊朝日  2018年9月21日号

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