いずれにしろ、中国医学や漢方での認知症のとらえ方は、認知機能の低下を脳だけの問題だとは考えていません。これが西洋医学だと、臓器別にバラバラに見ようとするので、脳のMRI画像などを見て、脳のこの部分が萎縮しているので、認知機能が落ちているのだと診断します。

 もっとも、以前(5月18日号)に述べたように、最近は認知機能の低下には免疫の力が関係しているという見解が生まれています。脳だけで認知症をとらえることは難しくなってきているのです。

 さて、漢方では認知症の四つの原因に対応してそれぞれ生薬があります。

(1)血おに対しては、当帰、延胡索、鬱金、三稜、丹参などの活血化お薬。

(2)腎虚に対しては、山薬、蓮子、肉じゅ蓉、杜仲、何首烏などの補腎薬。

(3)脾気虚に対しては、人参、党参、黄耆、白朮、山薬などの補気・健脾薬。

(4)肝気鬱に対しては、延胡索、赤芍、山茱萸、何首烏、杜仲などの疏肝解鬱薬。

 これらの生薬を組み合わせた方剤が血おでは当帰芍薬散、腎虚では六味丸、脾気虚では四君子湯、肝気鬱では安中散などです。

 四つの原因の兆候が自分の体にあらわれたら、こうした方剤を服用します。それが、認知症の予防になるというのが、漢方での考え方なのです。

週刊朝日  2018年9月7日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ