「1万歩がいいと聞いたので、2万歩歩くようにしています!」

「筋トレを欠かさずやっています。鍛えないといけませんから」

 そう言って整形外科の外来に受診してくるシニア。病院に来たのは、歩きすぎて膝や股関節を痛めたり、筋トレのやりすぎで肩を痛めたりしたからだ。NTT東日本関東病院(東京都品川区)院長補佐で整形外科部長の大江隆史さんは、そういうときには必ず「何のために運動をやっているの?」と質問する。

「そういう患者さんって必ず『健康のため』と答えるんですね。でも、実際には足や肩を痛めて病院に来ているわけです。高齢者は一度ケガなどで運動ができなくなると、一気に筋力の低下が進む。以前のような状態を取り戻すのはとてもたいへんなことをわかっていないんです」(大江さん)

 リスクの中でも怖いのは、突然死だろう。

「ランニングやマラソンに伴うリスクという印象が強いですが、実は、これらよりもむしろキケンなのは、ゴルフや山登りです」

 と指摘するのは、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の坂本静男さんだ。いずれも、コンディションが悪い状態で運動することと、脱水を起こしやすい環境にあることを問題視する。

「ゴルフ愛好家は、朝早くに起きてゴルフ場に出かけていきますが、前日は遅くまで起きていて睡眠不足になっていることが多い。一方、山登り愛好家は体調が悪くても“下りる勇気”がなく、無理して登ってしまうのです」(坂本さん)

 ゴルフも山登りも、屋外で長時間にわたって体を動かすため、暑い時期でなくても脱水に陥りやすい。

「高齢者の運動中の突然死で多いのは、心筋梗塞です。なぜ体調不良が心筋梗塞を起こすのかよくわかっていませんが、コンディションが悪いときに体を動かすと自律神経のバランスが崩れ、冠動脈がうまく拡張しなくなる。そこに脱水によってドロドロの血液が流れるので血管が詰まり、心筋梗塞を起こしやすいのではないでしょうか」(同)

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