
「がんが治ると言われたのに、再発した」「ステージIVと言われた。もうなすすべがない」。医師からのこうした言葉にショックを受けた、というがん患者の話をよく聞きます。しかし、言葉の意図を医師に確認すると「そんなことは言っていません」ということが多いのも事実です。患者の理解が不足する背景には、医師とのコミュニケーションが不十分で「がん用語」に対する誤解を是正できないことがあります。好評発売中の週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」では、がん患者や家族が誤解しがちな代表的ながん用語について、専門家に正しい意味を解説してもらっています。ここでは、「余命」について紹介します。
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がんと診断された患者や家族の中には余命を知りたいという人も多いでしょう。最初にがんと診断されたとき、再発がわかったときなどに主治医に質問をする人が多いようです。そのときに、
「あなたの余命は3カ月です」
という答えが返ってきたら……。東京女子医科大学病院がんセンター長の林和彦医師はこう言います。
「そもそもこのように断言する医師は多くないと思います。なぜなら、その人がどのくらい生きるかなど、明確に医師が答えを出せるはずがないからです。ネットなどで『余命◯年と宣告されました』などと載っていますが、事実は違う場合も多いと思います」
「私も答えることができません。同じステージであっても、他の病気が合併しているかや、食事がとれるかどうか、栄養状態なども影響しているため、本当のところ、わからないのです」(帝京大学病院腫瘍内科准教授の渡邊清高医師)
ただし、林医師はがんが進行し、精神的にもつらい中で、「子どもの結婚式に間に合うか」など、残された時間とやりたいことの間で患者が思い悩んでいる場合は、過去のデータと患者のからだの状態、これまでの診療経験と照らしあわせ、推測した余命を回答する場合があると言います。
■余命の指標はある
林医師の言う「過去のデータ」が「5年生存率」や「生存期間中央値」といった指標です。