生存率はある治療を受けた患者の集団のうち、一定の期間を経過した時点で生存している患者の割合をパーセントで示したものです。がんの治療成績や薬などの治療効果を判定するための指標として有効とされており、5年生存率が有名です。

「薬の臨床試験ではあらかじめ目標となる生存率や生存期間を設定して試験を開始します。乳がんや前立腺がんなど生存率の高いがんでは10年生存率、予後がきびしいとされるすい臓がんなどでは1年生存率や2年生存率として評価することもあります」(林医師)

 ただし、こういったデータは過去のものであることに注意が必要です。

「2018年時点で公表されている最新の5年生存率は2006年~08年に診断された人を対象にした統計です。この頃、分子標的薬は現在ほど一般的ではありませんでした。その後、がんの治療は大きく進歩しており、現在、治療している人の5年生存率はもっと高くなっているでしょう」(渡邊医師)

■データは過去のもの

 生存期間中央値とは、ある治療をおこなった患者の集団を生存期間の長い人から順に並べ、半分の人がなくなったときの値です。

 例えば生存期間中央値が「2年」だったら、それは臨床研究で同じ治療を101人にした際に、51番目の人が亡くなった時期が2年だったということ。2年未満で亡くなる人が50人いる一方、2年を過ぎても生きている人が50人いることになります。生存期間中央値は、その期間生きる人の割合が多いかどうかとは、別の指標なのです。

「抗がん剤や分子標的薬は薬ごとに生存期間中央値が出ており、治療を開始するにあたって患者さんにそういったデータを示すのが一般的です。私自身は『余命や予後を気にしすぎるよりも、まずは治療効果が得られることを期待して、頑張りましょう』とお話ししています」(林医師)

「大事なのは自分のがんの状態を確認しながら、その都度、できる治療をしていくことです。がんがあっても痛みがなく、食欲や体力を維持できれば、自立した生活を送ることができる時間が長くなります。高齢の患者さんでは平均寿命を超えることも珍しくありません」(渡邊医師)

◯取材協力
東京女子医科大学病院がんセンター長化学療法・緩和ケア科教授
林 和彦医師

帝京大学病院腫瘍内科准教授
渡邊清高医師

(文/狩生聖子)

※週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」から抜粋

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