離婚における財産分与は、夫婦それぞれが結婚前にためた分などを除き、原則として、お互いの財産をすべて開示し合うところから始まる。土地や建物などの不動産、車、預貯金、有価証券など、所有名義が夫婦どちらかになっていても、それを築くにはもう一方の協力もあったと考慮され、共有財産と見なされる。退職金も同様で、婚姻期間分を折半するのが原則。年金まで分割になるため、離婚を決めた夫婦にとっては、今後の人生を左右する大問題だ。特に熟年離婚となれば、分ける財産も多くなる分、もめやすい。
「離婚を決めるときには、もう顔も見たくないというほど関係性が壊れていることも多い。いけないとはわかっていても、そんな相手に、なるべく財産を渡したくないと考えるのが、人間の心情でもあるでしょう。計画性と戦略を持って、財産を互いに隠す例は珍しくありません」(岡野さん)
ここで冒頭の聡子さんの話に戻ろう。夫の隠し方は巧妙で、1千万円は、地方に住む母親の口座に。さらに500万円ずつ、縁もゆかりもない地方銀行とネット銀行の口座に隠されていた。驚いたことに、残り1千万円は、いつの間にか夫の名前で登記されていた株式会社名義の口座にプールされていた。株式会社の取締役には、のちに発覚する夫の愛人の名前が記載されていた。
「財産分与逃れのために、手の込んだ隠し方をしているケースは少なくない」
探偵として、過去にいくつもの夫婦間の財産隠しを暴いてきたT.I.U.総合探偵社の阿部泰尚さんは、こう明かす。阿部さんによれば、財産隠しは、一般的に妻より収入が多い夫に多い。「趣味にお金をつぎ込んだ」などと理由をつけ、実際はどこかに隠しているケースが少なくないのだという。
手口で多いのが、相手に内緒で銀行口座を開設し、そこにお金をプールしておく“隠し口座”。隠し口座を作る場合は、極力察しがつかない銀行が鉄則だ。最近では、手続きが簡単なネット銀行や、縁もゆかりもない場所の地方銀行に隠し口座を作る例が多い。