では、Aさんを含めて、なぜ原発の仕事をしたか、といえばカネが目的だった。
「原発で働けば、いいカネになる。お布施もたくさんできる」
と聞いて、Aさんも、教団支部で教えられた番号に電話して働くことにしたという。
オウムの教えでは、お布施をすれば功徳になる。しかも、その額が多ければ多いほど功徳は大きいとされる。
Aさんたちは、会社が借りあげた発電所近くの下宿屋に泊まり込み、連日検査を続けた。日当は手取り1万1000円から1万4000円ぐらいで、残業が多い月は、時間外手当を合わせて1カ月に60万円以上稼いだこともある。
「仕事は簡単で、楽でした。宿泊代金と食費は会社持ちだし、自宅から発電所までの交通費も支給された。原発のまわりは遊ぶ所もなくて、おカネはたまる一方でした。まとまった額になると、いつも、教団の経理担当者に現金で渡したんです。全部で500万円ぐらいお布施したんじゃないですかね」(Aさん)
しかし、オウム信者が組織的に原発に入っていた事実は消えない。核戦争に注目し、レーザー兵器の研究まで手掛けたオウムにとって、原発施設はかっこうのターゲットだったはずだ。本当に危険はなかったのだろうか。
それについてAさんはこう見ている。
「オウムは尊師の意見がすべての教団。尊師が、原発ジャックの可能性に、たまたま気がつかなかったのが幸いしたんじゃないでしょうか」
Aさんのいう原発ジャック計画は幻だったわけだが、化学知識の豊富な幹部が、麻原被告にこういった事実を詳細に報告していたら、と思うとゾッとするのである。
※「週刊朝日」1995年9月1日号に掲載された記事を加筆・修正