実際、金岡さんが過去にセカンドオピニオンとして相談を受けた患者の中には、こうした薬を1~2年間と長期的に使っていたケースもあったという。薬代も高く、副作用に苦しみながら、「月に何千円も払っている」と吐露する患者もいた。最近ふらつくようになったと訴えた患者に処方薬を聞いたところ、先に挙げた薬が含まれていた。
また、物理療法についても効果が明らかではないにもかかわらず、「患者を頻回にクリニックに通わせて、治療を受けさせているのは問題」と指摘する。
では、マッサージや鍼灸(しんきゅう)、整体など代替療法による腰痛治療はどうか。これについては、「利点と問題点の両方」があるという。
「画像だけを見て患部を触らない整形外科医より、患部を触ってケアしてくれる施術者のほうが安心する患者さんの気持ちはよくわかります。ただ、代替療法も対症療法にすぎません。マッサージなどによって血行がよくなって痛みが和らいでも、原因が改善されなければ腰痛は再発します」
では、最善の腰痛治療とは何か。金岡さんはシドニー五輪以降、腰痛で棄権する選手を出さなかったメソッドを明かす。それは意外にも“運動療法”だ。
「できるなら、トレーナーや理学療法士からやり方を教わるのが望ましい。ただ、そういう指導が受けられないときは、脊椎や腰椎(ようつい)を支える腹横筋や多裂筋を使うエクササイズをしてください。最近では解説本が多く出ていますし、フィットネスジムなどに通っているのであれば、トレーナーに相談してもよいでしょう」
こうした運動療法の効果について、金岡さんはこんな検証を行っている。
慢性の腰痛患者18人(男性4人、女性14人、平均年齢54.1歳)に予防エクササイズをしてもらい、腰痛の変化をみたのだ。その結果、実施前にはVAS(痛みを表す指標で、「0センチ=まったく痛みなし」「10センチ=今までで一番強い痛み」として、現在の痛みの強さを患者に示してもらう)で平均5ほどあった腰痛が、半年後には1以下になった。
「運動することで適切に腰を動かせるようになりますし、再発しにくい体を作ることも可能です」
ただ、このエクササイズを始めるにあたっては、条件がある。「整形外科で検査を受けて、手術をする必要がないことが明らかになった」腰痛であることだ。
「整形外科の重要な役目の一つが“レッドフラッグ(手術が必要な脊椎疾患や、骨折、骨のがんや骨転移など)”がないかをチェックすること。検査で手術が必要であることがわかれば、受けたほうがいいと思います。日本の脊椎手術の水準は世界各国と比べてもトップクラスです」
いずれにしても「慢性腰痛は自力で治す意識が大事」と金岡さんはいう。
「患者さんの中には運動療法を嫌う方もいますが、腰痛は薬や物理療法では治りません。医療者も従来の対症療法ありきではなく、新しい考え方で患者さんを診る意識改革が必要だと思います」
(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2018年7月20日号