東日本大震災で津波や火災に襲われた海沿いの集落=2011年、福島県 (c)朝日新聞社
東日本大震災で津波や火災に襲われた海沿いの集落=2011年、福島県 (c)朝日新聞社
阪神大震災の火災で焼失した住宅密集地=1995年、神戸市 (c)朝日新聞社
阪神大震災の火災で焼失した住宅密集地=1995年、神戸市 (c)朝日新聞社
建造物がひしめく都心の住宅地。大地震の備えは大丈夫か=2016年、東京都東部/大宮仁撮影
建造物がひしめく都心の住宅地。大地震の備えは大丈夫か=2016年、東京都東部/大宮仁撮影
小山田利男さんは1938年生まれ。大地震による都市災害の研究を続けている
小山田利男さんは1938年生まれ。大地震による都市災害の研究を続けている

 首都圏から名古屋、大阪に続く太平洋岸の住民は、少しでも早く内陸部に移住するべきだ――。6月18日の大阪北部地震を受け、住宅メーカー富士ハウス工業(山梨県富士吉田市)の社長で、『首都崩壊の危機を救え!』の著書がある小山田利男さんがそんな提言を打ち出した。2011年の東日本大震災以来、地震災害の研究を続けた結論だといい、「国主導で都市を大改造しないと、日本という国の存亡が危ぶまれる」と警告する。

【写真】阪神大震災の火災で焼失した住宅密集地

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 16年以降、本地震をはじめ、北海道浦河沖、鳥取県中部、福島県沖、茨城県北部、島根県西部と、マグニチュード6以上の地震が相次いでいます。国の中央防災会議は、M8を超す「南海トラフ地震」が今後30年以内に7~8割の確率で起きると予測。M7級の「首都直下地震」の発生も懸念されています。

 大地震で被害が顕在化するのは都市部です。東日本大震災では、大津波が民家やビルをのみ込み、自動車を木の葉のように流しました。関東大震災では火災旋風で逃げ場を失った多くの住民が亡くなりました。

 東京の昼間人口は1500万人にのぼります。湾岸の港区、品川区、江東区、江戸川区などは津波被害が予測されます。古い家屋が密集する中野区、足立区、葛飾区などでは出火すると、瞬く間に類焼する危険があります。規模は違えど、太平洋岸に面した地方都市も同様の危険性を持っています。

 こうした都市部で大地震が発生すれば、取り返しのつかない被害を招くでしょう。一刻も早い対策が必要です。人口が密集している都市を躊躇なく改造せねばなりません。何よりも優先するべきは(1)湾岸地域の人口を減らし、海沿いに津波避難公園をつくる(2)旧家屋が立ち並ぶ住宅密集地の人口を減らし、一定間隔で火災防火帯を整備する――の2点です。

 都市の人口を減らすためには、現在の住民の移転を促す必要があります。格好の移転先があります。郊外や山間部にある「遊休農地」です。農業の担い手不足などで使われていない農地です。現行では、農地法により、農業者や農業参入者以外の売却は認められていません。これを時限立法で規制緩和し、都市部からの移転希望者が遊休農地500~2千平方メートル程度を取得できるようにするのです。

 さらに、年収の低い移転希望者には500万円程度を低金利で貸し付ける制度も創設します。こうした制度が整えば、都会のいわゆる「ワーキングプア」には移転の需要があるはずです。若者の貧困対策にもなるだけでなく、郊外や地方の過疎化対策にもなります。

 大阪北部地震を専門家が予測できなかったように、大地震は明日起きるかもしれません。このまま手をこまぬいていたら、間違いなく大惨事を招きます。国が主導して、都市部の住民を少しでも多く、なるべく早く、地方に移住させる施策をつくるべきです。(小山田利男)

※週刊朝日オンライン限定記事