住宅を旅行者に貸す民泊が解禁される。これまでは法的な位置づけがあいまいで、“ヤミ民泊”が広がり、トラブルも多かった。解禁に合わせ、営業日数などの規制も新設される。“ヤミ”で営んでいた人は儲け損なうが、商機に沸く人もいる。
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JR京都駅から徒歩10分余りの住宅街。内装業を営む坂本秀浩さん(48)は住宅を自ら改装し、民泊を始めようと考えていた。営業ルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行されるのに合わせ、日本の伝統色の朱色などを使った壁紙や建材で改装。扉も新しくして一棟貸しにする。営業前には自らも近くへ引っ越す予定だった。
しかし、今年に入って、日数や地域などに独自の規制を設ける京都市の条例が明らかになるにつれ、期待は失望へと変わった。
当初考えた家主不在型の民泊だと、宅地建物取引士などの有資格者に管理を委託する必要がある。京都市は条例で、物件の半径800メートル以内に管理者の駐在を求めている。「駐在は現実的に難しい。家主として管理しないと採算が合わない」。そう考えて開業をあきらめ、物件を売った。
新法施行を控え、営業に必要な届け出の受け付けが3月に始まったが、出足は鈍い。5月11日現在、全国で724件。観光客が多い京都市でさえ6件だ。
京都市内でゲストハウスなどの工事を手がける工務店「京滋エルシーホーム」は、新法に関する相談や問い合わせを顧客から数多く受けた。しかし、実際の工事依頼はゼロ。現在抱える工事は、これまでも認められていた旅館業法の簡易宿所として開業する物件だ。
井上大輝社長(30)は「新法での届け出をあきらめ、簡易宿所での運営に切り替える顧客が多い。今はこれ以上注文を受けられないほど忙しい」と話す。
簡易宿所とは、山小屋のように大人数で宿泊場所を共用する施設。新法による民泊は届け出で済むが、簡易宿所は許可の申請など手続きのハードルが高い。ただ、民泊の営業が年180日に限られるのに対し、通年営業できる。民泊のルールが厳しい地域では、部屋の稼働率をより高くできる簡易宿所に変える人も多い。
京都市は条例で、町家物件や家主同居型などの例外を除き、住居専用地域での営業を1月から3月の60日間に限定する。自社でゲストハウスも運営する井上社長は「国際交流目的ならば新法でも十分だが、ビジネスや投資として考えれば、規制の厳しい京都市内の民泊は、簡易宿所が主流になるだろう」とみる。