大輔の場合は、そもそも精密な制球力がない。構えたところにいかない割合は、4割前後あるのではないか。だが、それをすぐに生かすことができる。本人も各打者の強い球種、そしてコースにさえ投げなければいいと割り切っているんじゃないかな。配球というものはウィニングショットから逆算して組み立てるのが理想だが、全打者にはできない。今の1球を次にどう生かすか。偶然の1球を必然の組み立てに見せる臨機応変さこそ大事になってくる。

 だから、四球が多かろうが走者を背負おうが、むしろその状況をどう生かそうとしか考えていないのではないか。荒れ球も歓迎すべきこと、くらいに思っているのだろう。

 今の時代は各球種の曲がり具合や回転数など、何でも数値化される時代になった。そのデータを基に投手は、自分の調子の良しあしや成長を感じることができるし、打者は、対策を立てる。だが、毎試合打席に立つたびに違った顔をみせる投手がいたとしたら。組み立ても傾向もまったく違う投手がいたら、それは対策の立てようもない。不規則性こそ、打者にとってやっかいなものに変わる。大輔はそれを知っている。

 並の投手にはできないことだよ。彼は私が西武の監督時代にも、点差が開いて試合の行方が決したら、打たれてもいいから色々な実験をしていた。そんな一つひとつの経験が今になって生きているのではないかと感じる。新たな可能性を今後も示してもらいたい。

週刊朝日 2018年6月15日号

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