「『自分の夢を捨ててでもやくそくを守る手品師はいい人だと思った』など教科書の求める価値に、意見が収斂していったのです。『ステージに招待する』という意見の子も次々と男の子との約束優先に変わっていき、少数意見に対する同調圧力はすごいものがありました。子どもたちにとって教科書に書いてあることは絶対です。子どもたちは自分で考え、議論することを放棄してしまうのです。洗脳につながりかねず、正しい生き方はお上が示してくれるものと思い込みかねない恐れがあります」(同前)
このほか、通知表には道徳の「評価欄」を設けず、公簿である学習指導要録のみに掲載する方法も模索されている。
『「道徳教育」のベクトルを変える─その理論と指導法』などの著書がある大東文化大学の渡辺雅之准教授はこう指摘する。
「本来、道徳は正式な教科になり得ません。例えば理科は物理学、生物学など学問的蓄積を根拠にしていますが、道徳には根拠となる学問がありません。本来ならば哲学や倫理学が基礎学問になるはずですが、『特別の教科 道徳』はそういう設計になっていません。そのため教員免許も発行できない。学習内容は国(文科省)が規定するので、時の政権の意向や情勢で変化します」
いま進められているのは個人よりも国家を優先する人間像だ。渡辺氏が続ける。
「近代民主主義社会の基礎的な考え方は個人の幸せのために国家があるというものですが、それとは真逆です。道徳の教科化は政治的な流れの中で起きたもので、その中心は安倍首相の私的諮問機関である教育再生実行会議です」
中学校では来年度から正式教科としてスタートするが、3月27日、中学校道徳の教科書検定で8社の教科書が合格したばかりだ。その中に「日本教科書」の教科書が含まれている。日本教育再生機構の理事長で安倍首相の政策ブレーンとして知られる八木秀次・麗澤大学教授らが16年4月に設立した教科書出版会社だ。現在、八木氏は代表を退き、助言している程度という。後任の代表取締役には晋遊舎の武田義輝会長が就いている。この晋遊舎は韓国を敵視し、罵倒する内容の『マンガ嫌韓流』シリーズという、いわゆる「ヘイト本」を出している出版社だ。