そして花田虎上さんが入ってきて、久しぶりに国技館の土俵に上がりました。その瞬間、白鵬関は何とも言えない笑顔を見せたのです。少年のような笑顔。自分がこの世界に入る前に横綱として活躍していた男が目の前にいる。目がキラキラしている。いろんな著名人に会っているはずの白鵬関を一瞬で少年の顔にさせる。二人が向き合い、握手。そして、抱き合う。このときの、抱き合い、なんか違う。両手でギュッと抱き合っているのに、なんか体を触って何かを確かめているような感じもする。

 そして、トークが始まると、花田虎上さんが教えてくれました。「今、抱き合った瞬間に、実は体を確かめてたんですよ」と。一瞬抱き合ったように見えるのだが、花田虎上さん、18年前の力士の魂が蘇ったのか、白鵬関の体を力士として、体の作り、筋肉などを確かめたようなのです。抱き合ったように見えたが、ほんの数秒の取組と言って良いかもしれない。白鵬関も同じく、抱き合った瞬間に花田虎上さんの体を確かめていたようなんです。なんでしょう。なんだかそれを聞いた瞬間に、熱いものが胸にこみ上げてきました。

 力士としての本能。ほぼ初対面の二人だけに、緊張感もありましたが、終始、白鵬関は少年のような顔で。花田虎上さんは先輩として、そして現役の横綱を前にして、とても嬉しそうな顔をしていたのを忘れません。

 いろいろとネガティブな話題ばかりが前に出る相撲界ですが、未来の横綱を目指す子供たちの前で、こんな「夢の取組」があったことも、お伝えしておこう。

週刊朝日  2018年3月2日号

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