さらに、メンタルの強さも必要とされる。バナーと呼ばれる横断幕を掲げるため、海外で他の選手のファンと交渉するという。すでに場所取りしている観客を探し出し、羽生の演技中だけ譲ってもらえるよう、お願いするのだ。
いったい、何が彼女らをそこまで駆り立てるのだろうか。
「それはもう、才能とドラマ性でしょう」
前出の坂口さんが羽生に注目し始めたのは、09年ごろ。シニアに上がった10-11年のシーズンで出場したNHK杯で、大技である4回転トーループを誰よりも美しく着氷した姿が、強烈な印象として残った。
「私を含むスケオタ(スケートオタク)は、この時に羽生の輝かしい未来を確信したはず。ジュニアで勝てても、シニアでパッとしない選手は多いですが、羽生の存在は当時から突出していました。スケートだけでなく、ルックスや立ち居振る舞いまでもが才能の域」
震災が羽生にドラマ性をもたらし、後押しになった側面もある。羽生がシニアに上がった翌年に発生した東日本大震災で、仙台の羽生の実家は全壊。自身も被災者となった中、絶望の淵から駆け上がった”天才”のドラマに、多くの人が勇気と感動を与えられた。
このストーリーが完成したのが震災翌年の12年に17歳で初出場した世界選手権だ。フリーの曲はロミオとジュリエット。足の負傷の影響から転倒するも自己最高点を大幅に更新し、銅メダルを獲得。“神演技”として語り草になっている。
「スケートは選手生命が短いスポーツだからこそ、お気に入りの選手が第一線で活躍できるのも数年。その限定感に、ファンはさらに惹きつけられる」
そんな坂口さんでも平昌五輪には行かなかった。理由は「羽生のベストパフォーマンスが見られない可能性が高い」から。その代わり、3月にイタリア・ミラノで開催される世界選手権の”良席”を、昨年6月からキープしている。平昌五輪の観戦ツアーより、格段に安く、しかも長期間行けるというわけだ。