日本ではメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準も、欧米より厳しく適用されているという。厚労省がメタボ撲滅キャンペーンを推進し、特定健診(メタボ健診)・特定保健指導が始まったのは、2008年のこと。40~74歳までの公的医療保険加入者で将来、病気になりそうな人を対象に、医師などが介入することで病気の発症を予防することを目的として、医療費の抑制が図られた。日本版メタボの基準はBMI25以上で、ウエスト周囲径が男性85センチ以上、女性90センチ以上で、高血圧、脂質異常、高血糖のうち二つ以上が該当する状態。基準値は、血圧130mmHg/85mmHg以上、中性脂肪150mg/dL以上またはHDL40mg/dL未満、空腹時血糖値110mg/dL以上となっている。健診や人間ドックの検査結果で、これらの数値に一喜一憂する人も少なくないだろう(以後、単位は略す)。
ウエスト周囲径は、内臓脂肪が100平方センチを超える「内臓脂肪型肥満」を判定する目安になっている。新見氏がこう指摘する。
「本来は、CTでおなかの断層写真を撮って正確に測るべきなのに、それが手間だからとウエストだけ測ってメタボの最初の関門を通過させている。治療しなくてもいい人まで治療していることになりますが、内臓脂肪は食事や運動など生活習慣の改善で減らせます。私なら投薬はしません」
また、メタボばかり強調することで、痩せている人の病気を見逃すという弊害が起きる。大櫛氏によれば、日本では「痩せ」の糖尿病が多く、発症した人の55%はBMIが25未満だという。一方で、世界一の長寿国にもかかわらず、血圧や中性脂肪の基準を欧米より厳格化し、「健康な人を病院に送り込んでいる」と言う。
「中性脂肪は150以上でメタボになりますが、この基準にはまったく根拠がない。実は中性脂肪が200、300以上と多い人ほど死亡率が下がるのです。中性脂肪による健康への影響は少なく、欧米で薬物治療を開始する基準は1千以上です。日本では0.1%しかいません」(大櫛氏)