著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回、俳優・市毛良枝さんの「キッチン ボン」の「ボルシチ」だ。
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知人に連れられ、最初に伺ったのは18歳で役者の駆け出しの頃。石原裕次郎さんなど名だたる売れっ子スターが集まる店で、緊張気味だったのを覚えています。当時は先代夫妻が切り盛りされていて、皆さん親しみを込めて「ボンのパパ、ママ」って呼んでいました。
いまから50年前くらいのことですから、当時はロシア料理なんてまだ珍しい時代。赤いギンガムチェックのクロスの上で、はじめてボルシチを食べた時は、その豊かな味に驚きました。牛肉のうまみがとけ込むスープに、ごろっとしたジャガイモが入っていて、厚切りレモンが添えてある。このレモンの酸味がまたいいんです。たまの贅沢で大奮発して、名物のシャリアピンステーキをぺろりと平らげたこともありました。
知らせていないのに、舞台があると楽屋にそっとサンドイッチを差し入れてくださる。そんなやさしい心遣いもありがたかった。いまも息子さんが当時の味を引き継いでいらっしゃるのは、嬉しいかぎりです。
(取材・文/今中るみこ)
昭和30年創業の洋食店。美空ひばりも好んだというボルシチは、先代が旧満州でロシア皇帝直属の料理人から教わったという名物料理。長年継ぎ足し作り続けるブイヨンに、山形牛のバラ肉やニンニク、キャベツのうまみがとけ込む。仕上げの生クリームがまろやかさを、レモンが酸味をあたえる。別添えのライ麦パンとの相性もいい。1500円。パン320円。税込み
「キッチン ボン」東京都渋谷区恵比寿西1‐3‐11/営業時間:12:15~13:30L.O.、18:15~20:10L.O./定休日:水、第3木
※週刊朝日 2018年1月26日号