大野:大事な指摘ですね。
中川:松本さんの敵って、誰ですか。
松本:頭上に阿久悠という巨大な城が浮かんでいましたからね(笑)。
中川:最近、テレビでの「シンガー・ソングライターでいい詞を書いている人は歴史上、10人くらいしかいない」という発言が話題になりました。
松本:なんであんなこと言っちゃったのか(笑)。
中川:10人とは?
松本:えー、困ったな(笑)。井上陽水、吉田拓郎、ユーミン、中島みゆき……まあ、みなさんが思うような顔ぶれですよ。でもやっぱり、拓郎とかユーミンとやるときは恥ずかしいものはつくりたくないですよね。(ユーミン作曲の)「赤いスイートピー」のときも、いい詞をつくろうと思ったし。
中川:ジャスラックに登録している松本さんの曲は2143曲にのぼります。
松本:人間が天下を取るのって3年くらいじゃないですか。それ以上は運ですよ。70年代の阿久さん、80年代の僕はそれぞれ10年くらいやったけど、もう十分過ぎます。
大野:私は70年代に書き続けて、82年の木の実ナナ&五木ひろし「居酒屋」で最後のお土産をいただいたような気がしています。私が今も食べていけるのは「名探偵コナン」じゃなくて「居酒屋」なんです(笑)。
中川:なるほど。カラオケの印税ですね。その数字はなかなか見えてこない。松本さんはシングルよりアルバム志向。『A LONG VACATION』は制作期間が長引きました。
松本:僕の妹が死んで、ちょっと精神的に壊れちゃってね。半年くらい書けなかったんです。「君は天然色」の詞にあるように、何もかもがモノクロームに見えちゃって……。アルバムの曲はできていて、詞をはめるだけだったから、やり出したら一気にできちゃいましたけど。
中川:収録曲の「さらばシベリア鉄道」は太田裕美も歌ってシングルにしました。
松本:太田裕美は不運な人でしたね。
中川:最大のヒット曲「木綿のハンカチーフ」が子門真人「およげ! たいやきくん」やダニエル・ブーン「ビューティフル・サンデー」の壁に阻まれて1位になれませんでした。
大野:ああ、その2曲があってはきつい。
中川:いい曲なのに思ったほどヒットしないってこともありますよね。
大野:喜多條忠さんが作詞した沢田研二「ロンリー・ウルフ」は自信作でした。もっと売れてもよかった。デモテープをショーケン(萩原健一)に聴かせたらすっかり気に入って、自分がもらえる曲だと早合点して大喜びしていました。
松本:ヤバいじゃないですか(笑)。