中川:企画会議とかするんですか。

松本:聖子の場合はしましたね。曲の売り込みのテープが山のように届いてね。プロデューサーから「この中にいい曲があったら使って」と言われるんだけど、一つもなかった。

大野:ミュージシャンからの売り込み?

松本:そう。後に有名になった人もいます。

大野:歌入れのときに詞をちょっと変えてくれってこともありましたか。

松本:聖子は言いませんでした。

大野:いや、松本さんが。

松本:僕は直します。

大野:阿久さんは一切直しませんでした。「あーあー」の「あー」の数も書いてある通りでないと。

中川:阿久さんは原稿用紙が作品そのもの。

松本:彼の防御本能でしょうね。「原稿用紙に書いたら確定なんだ」っていう。僕はミュージシャン上がりでスタジオに慣れているから。歌ってみて録音する最後の最後まで確定しない。紙に書いたものはスケッチみたいなものです。

大野:それは正しいでしょうね。

中川:阿久さんは手書きで、ファクスで送ることもしなかったとか。

松本:僕は誰よりも早く横書きにしたし、ワープロも使った。今ではiPhoneで書いてメールで送っちゃう。阿久さんとは正反対でカジュアルなんです。

 阿久は休筆を終えてからも書き続ける。だが、81年の年間チャートではトップ20に1曲も入らなかった。この年の週間チャートを追うと、全52週のうち、松本作品が28週にわたって1位。寺尾聰「ルビーの指輪」、近藤真彦「スニーカーぶる~す」「ブルージーンズメモリー」、松田聖子「白いパラソル」「風立ちぬ」、イモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」の6曲だ。この年、大瀧詠一の大ヒットアルバム『A LONG VACATION』(全10曲中9曲が松本の詞)も発売。南佳孝が歌った角川映画の主題歌「スローなブギにしてくれ(I want you)」の詞も手がけた。

大野:「ルビーの指輪」はすごく好きです。寺尾さんはザ・サベージというバンドにいて、(英国の)ザ・シャドウズのコピーをしていたころから知っています。テレビ番組で審査員をしていましたから。

松本:僕は高校時代、シャドウズのコピーをしていたので、実は寺尾さんには特別な思い入れがあったんです。それにしても、80年代、馬車馬のように働きましたけど、できすぎてますよね(笑)

中川:営業もせず……。

松本:仕事は全部受け身でね。断ることさえありました。敵の分も残しておかないと(笑)。阿久さんはちょっと取り過ぎたんです。敵がいないとやる気も起きないでしょう。

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