こんな思い切った挑戦をできるのは限られた存在。全国の焼き肉店は近年、仕入れ値の高騰に苦しみ、値上げする店も増えていた。

 小売店の価格も高い。10月の和牛サーロイン100グラムは1376円で、3年前の約2割高(農畜産業振興機構調べ)。和牛と乳牛をかけあわせた国産の交雑種、輸入牛肉などと比べ、高さが際立つ。

 和牛の売り場を縮小し、輸入牛肉や豚肉を広げる店もある。同機構の2017年度下半期の「食肉販売動向調査結果」をみると、和牛販売を減らすと答えた量販店は24%。国産に押される、輸入鶏肉の43%に次いで多い。それ以外は「減少」より「増加」が大幅に多く、対照的だ。

 精肉の販売動向に詳しい月城流通研究所の月城聡之さんは、こう話す。

「家庭の可処分所得が増えていないのに、和牛は高くなりすぎました。消費者は輸入牛肉や豚肉、鶏肉をうまく使い分けるようになった。豚肉一つとっても、黒豚、平田牧場の三元豚、イベリコ豚など選択肢が増え、最近は“第4の肉”羊肉もあります。さんま、いくらなど魚介類の高値で鮮魚部門は苦戦しており、量販店は精肉部門への期待が高い。肉の種類に応じたおいしい食べ方を提案するなど、店側も様々な種類の肉の売り方を工夫しています」

 イオンリテールは6月から、本州と四国の約400店でラム(子羊)の肉の売り場を、それまでの2~3倍に広げた。4月に試売したところ、「臭みがなく食べやすい」など顧客から好評だったという。

 総務省の家計調査をみると、家庭(2人以上世帯)の年間購入量は牛肉が20年間で半減、豚肉と鶏肉がともに3割増えた。20~70代の2千人を対象に、日本政策金融公庫が7月実施した調査によると、和牛を食べる頻度は「年に数回」と「ほとんど食べない」が約3割ずつだった。

 口の中に広がるジューシーな味わいと柔らかな肉質が魅力の和牛。焼き肉やステーキ、すき焼きは訪日外国人に大人気だ。イスラム教の戒律に沿ったハラール対応の和牛を出す飲食店も増えている。

 神戸牛のおひざ元の神戸新聞は11月21日付朝刊で、「神戸ビーフ高騰やまず 街の精肉店から姿消す」という見出しで神戸ビーフについて次のように報じた。

〈地元で市民に親しまれてきた街の精肉店では高価格のため地元客から敬遠され店頭でほとんど見られなくなっている。お歳暮商戦も販売が見通せない状況という。(中略)「神戸の人が神戸ビーフのすき焼きを食べるという文化はなくなる」(精肉店)と悲壮な声も聞かれる〉

 アジアの国々を中心に、高値でも和牛を食べる豊かな人が増え、和牛の国際化が進んだ。口にできる日本人は減り、食卓から遠ざかった和牛。世界経済の変化を映しているかのようだ。(本誌・中川 透)

週刊朝日  2017年12月8日号より抜粋

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