「万朝報」は内村鑑三、堺利彦(としひこ)、幸徳秋水(こうとくしゅうすい)を擁(よう)して反権力的新聞だったが、日露戦争非戦論をひっこめたため、進歩的記者たちはこぞって退社した。
「大逆事件」というでっちあげ秘密裁判で処刑された管野須賀子(かんのすがこ=1881~1911)は恋多き女性でした。アナーキストの荒畑寒村(あらはたかんそん)は二十歳のとき、六歳上の須賀子と結婚しましたが、その一年後に警察官をぶん殴って検挙され、懲役一年半をくらった。
須賀子は獄中の寒村に差し入れをした。かいがいしい妻でしたが、「万朝報」を退職した幸徳秋水と同棲してしまった。秋水はアナーキストのリーダーで、秋水が組長なら、寒村は若頭といったところ。入獄中の若頭の妻とできるとはとんでもない淫行です。須賀子の生活の面倒を見ているうちに須賀子に惚れられて、ついそうなった。
須賀子は幼いときに実母と死別し、十六歳になると継母のさしがねで鉱夫によって強姦されてしまった。かわいそうな娘で、こういった境遇を経てアナーキストになったのです。