人の名前が思い出せなくなったり、物をしまった場所を忘れたり。一見紛らわしい、老化による「物忘れ」と認知症による記憶障害。忘れ方にはどのような違いがあるのだろうか? 好評発売中の週刊朝日ムック「家族で読む予防と備え すべてがわかる認知症2017」からお届けする。
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「ほらあの人! 冷蔵庫のCMに出ている、若い男で」
「誰ですかね?」
「あの昔、朝ドラにも出ていた。しょうゆ顔の……」
「もっとヒントをください」
こんなクイズ形式の会話が、年をとると増えていく。飲みの席ならば「酔っていたから」と言い訳ができるが、シラフだと「もしかして認知症かも?」と疑心暗鬼になってくる。
では、老化によるもの忘れと認知症の境界線はどこにあるのだろうか。
両者とも記憶に不具合が起こっている点は同じだ。その違いは、ヒントによって思い出せるかどうか。老化によるもの忘れならば、通帳を「どこにしまったか」を忘れても、「書斎の机の中だったよね?」と言われると思い出せる。しかし認知症は、「しまったこと」自体を忘れているので、人に教えられても思い出せないのが特徴だ。
この差は、記憶のどの段階に問題が起こるかによるものだ。記憶には、1.覚える→2.保持する→3.引き出す、という三つの過程がある。加齢によるもの忘れは、3の引き出す機能が衰えることで起こる。頭の中にある膨大な情報から的確な内容を呼び出せなくなるのだ。ただし記憶自体は残っているので、きっかけがあれば「あ、そうだった!」と思い出せる。しかし認知症は、1.2にも障害が起こるので、記憶自体がなくなる。
“忘れる対象”にも違いがあると、認知症専門医であるお多福もの忘れクリニックの本間昭医師は話す。
「テレビで見たタレントの名前を忘れるなど、人の名前や地名といった『固有名詞』を忘れるのは老化なので心配いらないでしょう」