59年、14歳のウェートレスと関係を持って州外に連れ出したとして逮捕され、62年に刑務所に収監された。出所後に活動を再開して間もなく、その存在が再評価され、新たな脚光を浴びる。背景には、ビーチ・ボーイズが彼の「スウィート・リトル・シックスティーン」を改作した「サーフィン・U.S.A」をヒットさせたほか、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクスなどイギリスのバンドの多くもカバー曲をヒットさせてきた影響があった。以前よりも高い評価を受け、積極的に活動を続けたものの、90年代半ば以後は地元セントルイスでの活動が主体となっていた。

『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』は遺作であり、38年ぶりの新作でもある。幕開けを飾るのは豪快でワイルドな「ワンダフル・ウーマン」。続く「ビッグ・ボーイズ」や「ジョニー・B.グッド」の続編ともいえる「レディー・B.グッド」のイントロでは、お馴染みのあのギターのフレーズが! それだけでも心躍る。「ワンダフル・ウーマン」や「レディー・B.グッド」では、息子のチャールズ・ベリー・Jr.、孫のチャールズ・ベリー3世と共演。「ビッグ・ボーイズ」ではレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロがゲスト参加している。いずれもチャックならではのスタイルを継承しながら、新味にあふれている。

 娘のイングリッドも「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」と「ダーリン」でヴォーカルを披露。スタンダード曲の前者では、チャックが年輪を重ねたヴォーカリストとしての味わい深い声を聴かせる。後者では、年老いた父が娘に人生模様を語りかける。そんな父を優しく見守るように、イングリッドは控えめな歌唱で寄り添っている。チャックの家族への愛、一家の団結! それこそ本作で見逃せないところだ。

「ダーリン」「レディー・B.グッド」、さらにトニー・ジョー・ホワイト作品を取り上げた「3/4タイム(エンチラーダス)」も含め、本作では、自身の足跡を振り返る回顧的な作品が目立つ。「ダッチマン」の主人公もチャック・ベリー自身を思わせる。年老いた晩年のチャックの心情が随所でうかがえ、若き日の歌詞世界とは大いに趣が異なる。

 アルバムを締めくくるのは、権力や虚栄にとらわれた男どもへの辛辣なメッセージと、女性への賛辞を込めた「アイズ・オブ・マン」。自らを戒める人生訓であると同時に、68年間連れ添った妻のテメッタ・トディ・サグスに敬意を表した作品に違いない。

 生前、『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』の発表を告知する際、これは妻に捧げた作品だとし、「ダーリン、私は年を取った。このアルバムには時間がかかった。やっとゆっくりできる」と語っていたものである。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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