スタンフォード・ユニヴァーシティ1972
スタンフォード・ユニヴァーシティ1972
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許せスタンフォード大、いまからでも遅くない再入学盤
Stanford University 1972 (One And One)

 うーん。拙著『マイルスを聴けV7』ではこのライヴ、ケチョンケチョンに書きました。いわく「音が悪い。本作が出た時点で何種類の72年バンド物が出ていたのか不明だが、結果的に『ライヴ・アット・ポールズ・モール』が出たいまとなっては、まったく価値がない。収録曲もダブッていないのは《イフェ》くらい」と、それはもうレイ・ブライアントの放蕩息子の帰還か。が、許せスタンフォード大よ、なんと当日のライヴがかなり立派な姿になって帰ってきたではないか。よって本日をもってこのスタンフォード大ライヴ、「いまからでも遅くない再入学盤」と称するが、最後の《イフェ》が5分強のロング・ヴァージョンとなり、しかも音質がグワーンと向上するなど、これぞ正真正銘のヴァージョンアップ。ちなみに旧盤は約46分収録。それが音も良くなり約51分収録になったのだから、うれしめでたしスタンフォード。それでもなお最初と最後の2曲が不完全版ではあるものの、これ以上とやかくいうまい。しかし《イフェ》、ロング・ヴァージョンが発掘されてもまだ不完全版ということは、うーむ、テープが存在しないということなのか。ともあれこれで残すは9月23日=フィラデルフィア、10月8日=サンディエゴのみ、72年バンド完全制覇もいよいよ秒読み段階に突入した感がある。

 おお《レイテッドX》が「ごきげんよう」の挨拶もなく、いきなり土足で上がりこんできて驚くが、この曲、どこからスタートしてもどこで終わってもサマになるようになっている。とはいうもののこの嵐のような勢いとサウンドの洪水は尋常でない。最初に聞こえてくるのはカルロス・ガーネットの激しいソロ、そこからマイルスの「ウワワ、クワワ、キュワワン」のソロに突入するが、あなた、セドリック・ローソンのシンセサイザー攻撃がすさまじい。つづく《ホンキー・トンク》前半はそのローソンとレジー・ルーカスの過激ギターが火花を散らし、どこか『アット・フィルモア』のキースとチックのフリー・ジャズ合戦を思わせる。マイルス渾身のソロがまた熱く、約7分後に《ライト・オフ》にもんどりうってなだれ込んでいくあたりの展開は、ク~ッ、ナマで聴きたかったぞ。

 強烈な《ライト・オフ》が電池が切れるようにエンディングを迎え、そこから《ブラック・サテン》の重たいベースが「グフフフン、ブヒヒヒン」、ドラムスが「バシャバシャ」とくるあたり、ワタシ、もうなにもいりません。正直、もっともっと音が良かったらとは思いますが、これで満足できないようではマイルス者とはいえんでしょう。

【収録曲一覧】

1 Rated X (incomplete)
2 Honky Tonk
3 Right Off
4 Black Satin
5 Ife (incomplete)
(1 cd)

Miles Davis (tp) Carlos Garnett (ss) Reggie Lucas (elg) Khalil Balakrishna (el-sitar) Cedric Lawson (key, synth) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds) Badal Roy (tabla) Mtume (per)
1972/10/1 (Palo Alto)