――モチーフとなる編み物にも初挑戦。週に何度も編み物の先生のもとへ通った。
僕は手先が本当に不器用なんです。「この1玉編んできてくださいね」と宿題が出るから、家でも手首がちぎれるんじゃないかと思うくらいずーっと編み続けました。荻上監督のこれまでの作品を見ると長回しで撮ることも多いから、「これはごまかしがきかない」と思って。芝居をしながらも無意識に編めるようにならないといけないと一生懸命練習しました。
――介護職員として働くリンコは徹底的に優しい。マキオとトモとの3人の生活で、リンコの母性がますます輝いていく。
リンコは女性である以上、親になりたいという気持ちがずっとあると思うんです。その思いにずっとふたをし続けてきた人だと思う。「それはできないことなんだ」と思っても、忘れてまたその思いが盛り上がってしまう。その繰り返し。そんな彼女の葛藤と寂しさみたいなものを大事にしたいと思いました。
3、4カ月かけて準備しましたが、心がリンコさんのように母性や優しさで満たされるようになったのは現場に入ってから。僕も演じながら、トモがかわいくてかわいくて仕方がないと心から思ったんです。撮影が始まって間もない頃はどうすれば女性に見えるのか、どういう声を出せば女性に聞こえるのか、というところに集中していましたが、撮影が進むにつれてそこを度外視しても大丈夫なくらい、心の中にリンコさんが入ってきていた。「これは大丈夫だな」というある種、自信のようなものがありました。
――映画はファッションやインテリア、料理も見どころだ。リンコの服装はスカートやワンピースにカーディガンなどの羽織ものが中心のフェミニンスタイル。だが、そんなファッションにはトランスジェンダーならではの苦悩ものぞく。
トランスジェンダーの方みんなが言うんですよね。大きな手や肩幅、声でバレちゃうんじゃないかって。だれもがコンプレックスを抱えて生きている。そこを大事にしたいなと思いました。みんな女性より女性らしくいようとするんですよ。動きや話し方などすごく研究している。服装もそうです。普通の女性ならTシャツにジーパンでも女性は女性。体が男性の場合は自信がもてないから、なるべくフワッとした服を着たり花柄の服を選んでみたり。がんばって溶け込もうとするがゆえに、女性よりも女性らしくなっていく。