ヒラリー・クリントン氏(右)とドナルド・トランプ氏 (c)朝日新聞社
ヒラリー・クリントン氏(右)とドナルド・トランプ氏 (c)朝日新聞社
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 米大統領選で「TPP反対」が大きなテーマになったことで、米国が日本にさらなる譲歩を求める“極秘シナリオ”が動き始めている。安倍政権は「再交渉はない」と強気だが、医療保険や農産物などの分野に、米国は狙いを定めている。新大統領の誕生で、日本はどう変わるのか。

 10月27日に亡くなった三笠宮崇仁(たかひと)さまの本葬にあたる「斂葬(れんそう)の儀」が営まれた11月4日、国会ではTPP(環太平洋経済連携協定)の承認案と関連法案をめぐって、衆院TPP特別委員会で与野党が激しく対立していた。同日午後には与党が強行採決に踏み切り、自民、公明らの賛成多数で可決。塩谷立委員長(自民)が議院運営委員会にも知らせることなく開会したという異常事態に、与党関係者も「斂葬の儀のある4日の強行採決は避けると思っていた」と、驚きを隠せない。

 そもそも、政府・与党は10月中の衆院通過を目指していた。ところが、山本有二農水相が10月18日に「強行採決するかどうかは(衆院議院運営委員長の)佐藤(勉)氏が決める」と発言し、その後に撤回して謝罪。さらに今月1日には、問題発言を「冗談」とちゃかしたうえに、JA関係者に「農林省(農水省)に来ていただければ何かいいことがあるかもしれません」と、利益誘導ともとられかねない発言も飛び出した。「舌の根も乾かぬうちに」とはまさしくこのことで、国会の空転は決定的となった。

 それでも強行採決に踏み切ったのは、「11月8日の米国大統領選前に衆院を通過させたいという官邸の意向が強かった」(前出の与党関係者)からだ。

 大統領選は、ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が「TPP反対」を旗幟(きし)鮮明にしている。その中で安倍首相は、

「このまま無為に時を過ごせば、再交渉を求められる事態にもなりかねない」(衆院TPP特別委員会)

 と主張していた。

 だが、事情通の間では、その言葉を額面どおりに受け取る者はいない。元農水相の山田正彦氏は「再交渉はすでに水面下で始まっている」と言う。

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