「今、米国が強く求めているのは、一部の高額医薬品の特許期間を延長すること。TPPの協定では、特許期間は『下限で8年』となっているものを、12年間に延長することを求めている。すでに米国の大物議員が、日本との交渉を始めていると言われています」(山田氏)
政府が「聖域」として守ったと主張しているコメも同じだ。TPPには関税撤廃の例外規定はなく、発効から7年後に米国やオーストラリアなどの求めがあれば、日本はすべての関税について再協議しなければならない。これは、参加12カ国の中で日本にだけ課せられた片務的な見直し条項だ。
さらに、米国政府の国際貿易委員会(ITC)は、TPPに関する報告書で、日本への米国産のコメの輸出について「文書化されていない約束がある」と記述している。これについて山本農水相は「事実ではない」と否定したが、米国議会にも提出されたこの文書は、現在でも訂正されていない。
これは何を意味するのか。前出の山田氏は言う。
「米国には、自由貿易協定を締結する際に『サーティフィケーション』と呼ばれる承認手続きが定められています。他の署名国が、合意内容を十分に実行に移したと大統領が判断するまでは、批准完了の手続きを延長することができる。8400ページもあるTPPの協定文や付属文書には、再交渉の余地を残した“グレーゾーン”がある。TPPで国内法や制度が本格的に変化していくのは、これからなのです」
最近では、米国の製薬業界が日本の医療保険制度をターゲットにしているとの見方も強まっている。
日本では、国民皆保険によって医療費の患者負担は3割以内ですむ。手術や入院などの高額な医療でも、自己負担額は低く抑えられている。そのため、医薬品にどれだけのコストがかかっているかの関心は低く、高額医薬品市場は今後も拡大すると見込まれている。TPP交渉で、米国の製薬会社が米国政府に激しいロビー活動をしていたのも、成長が期待できる日本の医療分野で、有利なルールを求めていたためだ。