――やがて夫は写真に興味を持ち始め、妻は洋服のデザインを本格的にやりたいと考え始める。そして71年、二人は一緒にパリに行くことを決めた。

夫:なぜパリだったか? そりゃあ、写真と洋服と言ったらパリでしょう(笑)。

妻:私たち、そんなに理由をつけて動いたりしないの。でもあえて言うならば、学生時代にヌーヴェルヴァーグの映画はよく見ていたよね。ゴダールの「勝手にしやがれ」やトリュフォーの「大人は判ってくれない」……ああいう感覚がとっても好きだった。

夫:お互い仕事を辞めて行ったけど、「決意した!」って感じでもない。

妻:24歳といってもまだ社会的な地位もないし、大人になりきってない高校生みたいな感じだったから。

夫:で、僕は向こうでイギリス人写真家のアシスタントの仕事をして。

妻:私はパリにあった日本の洋服メーカーでお直し係をしてました。あるとき自分で作った服を着て歩いていたら、フランス人に声をかけられたの。「その服、どこで買ったんだ?」って。彼らは洋服の会社をやるためにデザイナーを探していたんです。それが縁で彼らの会社でデザイナーとして働くことになった。

――このときの経験がいまの自分たちの原点を作ったと、二人は振り返る。

妻:パリは楽しかったですよ。毎日、ドキドキハラハラで。でも私たち、いつも一緒だったわけじゃないんです。私は布地屋さんやボタン屋さんに行ったり、徹くんは美術館に行ったり、写真の勉強をしたり。それぞれに何かを見つけてた。

夫:ただ、のみの市には一緒によく行ったよね。

妻:そう! 朝真っ暗なうちから出かけて「今日はこれを手に入れた!」って競い合っちゃって。

夫:夫婦の転機はやっぱりパリだと思う。

妻:私もそう思う。このころの経験がいまの自分たちと仕事の“もと”を作っている。私たちはね、「なんでも一緒」じゃないんです。お互いが自立していて、くっつくときはくっつく。もともとそうだったけど、パリでそれが確立されたかな。

週刊朝日  2016年10月21日号より抜粋

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