混乱する築地市場移転問題。作家の室井佑月氏は豊洲新市場にかかわる“どす黒い人たち”の存在を指摘する。

*  *  *

 そもそもなんで市場を豊洲に移すことに決めたんだっけ? なんであそこにしなきゃならなかったの?

 豊洲市場は東京ガスの工場跡で、土地の売り主の東京ガスだって、土地に汚染が残っているってはじめからいっていた。

 実際に専門家が調べたら、環境基準の4万3千倍ものベンゼンや860倍ものシアン化合物が測定されたし。

 だけど、頑(かたく)なに豊洲でGO! 「汚染対策すれば大丈夫」とかなんとかいって。ほんで、土地代とは別に、汚染対策費用を850億円もかけたんだ。

 が、その対策もずさんなものであったのがバレた。

 主要となっている建物の下には、土壌汚染対策の盛り土が行われていなかった。青果棟の地下の一部ではコンクリートもなく、砕石層がむき出しになっていた。

 結局、莫大な血税をかけて、何をしたかったのか?

 まずはじめ、開場してから80年になる築地市場の老朽化が、危ないって話だった。

 建物の老朽化が問題だったら、補強作業をすればいい。移転より、建物補強のほうが金もかからない。

 だが、それだけが問題じゃないって話になった。今の築地は、衛生面で食の安全性を確保できない、って。

 じゃ、なぜ移転先に汚染されている土地を選ぶ?

 あの土地が便利だったって話だけど、食べ物を扱う市場なのに、汚染されている土地ってどうよ? いちばん大切なその部分をないがしろにするって変じゃね? みなさん、理解できます? あたしにはさっぱりわからない。

 そうそう、週刊文春9月1日号に、「豊洲新市場に移転した後の築地市場を通る道路・環状2号線の関連工事を、“都議会のドン”内田茂都議(77)の献金企業が複数受注していることがわかった」との記事があった。

 ひょっとして、そういうことが理由だったり? 一部の人が、もう金をもらっちゃったから、豊洲と決めたら、なにがなんでもそうしないと不味(まず)い案件になったのか? 大多数の食の安全を置き去りにしても。

 
 大多数を犠牲にしても金が欲しい、ってどす黒い人だな。ま、そういう人はいっぱいいるけど。

 福島第一原発があんな悲惨な事故を起こし、がんで苦しんでいる子どもたちのことや、未だ故郷に帰れない人たちのことを知っていても、原発推進。この国は地震の活動期に入ったと学者がいっても、気にしない、気にしない。

 悲惨な戦争の歴史を知っていても、人を殺すための武器輸出OK。集団的自衛権の行使容認。自分が血を流すわけじゃないから、べつにいいじゃん、儲かれば。

 大多数を犠牲にしてホクホクしているやつには、卵くらいぶつけてやりたい!

 が、「共謀罪」新法案が通れば、そんなたわいもない発言も怖くてできん。「卵」は爆弾の隠語だったなどといわれかねない。いや、マジで。

 どす黒い人は安泰で、黒さに磨きをかけるでしょう。

週刊朝日  2016年10月7日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら