《2035年にはさらなる技術革新により、時間や空間や情報共有の制約はゼロになり、産業構造、就業構造の大転換はもちろんのこと、個々人の働き方の選択肢はバラエティに富んだ時代になる》
報告書でAIは、人から職を奪うネガティブな存在としてではなく、さまざまな問題を解決するテクノロジーとしてポジティブにとらえられている。
今後、AIが使われると予測される分野はマーケティング、経理、金融、医療、教育、法律、人事、警備・防犯、農業、物流、土木・建築など多岐にわたる。代替される可能性が高いのは、認識や動作の習熟を必要とするものの、判断を必要としない定型的な業務だ。
一方、AIが医療画像でがんを検出した後の診断など判断を必要とする仕事、例外的な事象に対応する監督業務などの仕事は、人がAIと共存して担うことになる。人はAIが進化するたび、学び直し、スキルアップを否応なしに要求されるが、こうした技術革新は、会社のあり方を大きく変革させるという。
報告書を作成した懇談会事務局長を務めた柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授はこう分析する。
「スマホ、スカイプ電話などの出現で、会社に集まらずとも会議ができるようになりました。AIの進化で自由度はさらに進み、時間、場所、空間に縛られない働き方が可能になります。その結果、フルタイムで毎日、勤務する必要もなくなり、介護や子育てがある人でも働きやすくなるなど働き方にバリエーションができます」
報告書では、働き方の多様性が求められる背景には、日本の少子高齢化問題もあると指摘している。
日本の人口は35年には、1.27億人から1.12億人まで減少すると予測され、高齢化率も現在の26.7%から33.4%まで上昇。
逆ピラミッドによる労働力不足を補うために、将来、高齢者や子育て中の女性、家族の介護を担う人など、フルタイムで働きづらかった人たちにも働いてもらわなければならなくなるという。さらに35年には、驚くべき社会が到来すると報告書は予測している。
《2035年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊(かたまり)となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて、柔軟に企業の内外を移動する形になっていく。その結果、企業組織の内と外との垣根は曖昧になり、企業組織が人を抱え込む「正社員」のようなスタイルは変化を迫られる。(略)企業に所属する期間の長短や雇用保障の有無等によって「正社員」や「非正規社員」と区分することは意味を持たなくなる》