「人は誰でも落ち込んだり、不安になったりします。このとき、心は現在にありません。落ち込むときは、『何であんなことをしてしまったのだろう』と過去に意識が飛び、不安を感じるときは、『失敗したらどうしよう』と未来に意識が飛んでいます」(佐渡医師)
健康な人は、落ち込みや不安があっても、「仕方ないか」と現在に戻ってくることができる。だが、うつ病になると、落ち込みや不安を反芻してそこから抜け出せなくなってしまう。マインドフルネスの手法を身につけると、落ち込みや不安の反芻が始まっても、意図的に意識を“今”に持っていくことができる。
うつ病への効果は、「再発しにくくなる」というエビデンス(科学的根拠)が欧米から報告されている。
残念ながら、研究を行っている慶応大学病院も含め、現在、日本では医療行為としてマインドフルネスを実施している医療機関はほとんどない。だが、症状が完全に良くなっていて、主治医の許可のもとであれば、自分で試すこともできる。うつ病の症状が残っている場合は、症状が悪化する可能性があるため、自己流で実施するのは控えたほうがよいそうだ。
マインドフルネスの代表的なセッションの一つが、「レーズンエクササイズ」だ。用意するのはレーズン1粒。レーズン以外にも、小さくて、香りや味があり、表面に凹凸があるようなもの(粒チョコ、小さめの梅干しなど)で代用してもOKだ。前出の大野医師はこう解説する。
「レーズンエクササイズは、見た目や匂い、触感、味、風味、のど越しなどを通じて、五感を研ぎ澄まそうとする練習法です。最初は五感に集中するのは難しいでしょうが、コツコツと続けていくことで、徐々に集中できてくると思います」
レーズンエクササイズ以外にも、佐渡医師、大野医師らが監訳した『自分でできるマインドフルネス:安らぎへと導かれる8週間のプログラム』(創元社)や、ジョン・カバットジン著の『マインドフルネスストレス低減法』(北大路書房)などの書籍のほか、大野医師が監修するサイト「こころのスキルアップ・トレーニング」などもあるので参考にしてほしい。
「セッションを実践しなくても、冒頭の小川さんのように感覚に働きかけるような趣味を持ち、それに集中することができれば、マインドフルネスにつながります」(大野医師)
【レーズンエクササイズ】(概要)
1.レーズンを1粒用意する。苦手な場合、ない場合は小さくて香りや味がして表面に凹凸があるようなもの(粒チョコ、小さめの梅干しなど)で代用してもOK
2.親指と人さし指で挟み、押したり、見る角度を変えたりして、弾力や表面の形、色、光の反射具合、凹凸などをよく観察する
3.手のひらに置いて、転がすなどして動きや表面の様子などを観察する
4.親指と人さし指で挟み、ゆっくりと鼻に近づけながら、匂いの性質や強さなどを観察する。その後、ゆっくりと鼻から離しながら同じように観察する
5.ゆっくりと口に含む。噛まずに舌の上で転がす。表面の状態、風味などを観察する
6.ゆっくりと噛み、味や風味の広がりを観察する、噛みながらそれらの変化を観察する
7.ゆっくりとのみ込む。のどの奥から食道、胃へと移動していくことを感じる
※週刊朝日 2016年9月30日号より抜粋