ヘッドコーチとして、リオデジャネイロ五輪に参加した丸山茂樹氏が、選手たちの奮闘と成果を報告する。

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 ごぶさたしました! リオデジャネイロから帰って参りました。オリンピック期間中はメディア活動ができないため、4週ぶりの連載復活になります。

 治安が悪いというのが最大の懸案事項でしたから、まずは我々ゴルフチーム、そして日本からリオ入りしてたみなさんに何事もなくてよかったというのが最初の感想ですね。万が一の事態に備えて、ゴルフ関係者の移動の車は、すべて防弾車にしてもらいました。僕はもうホテルに引きこもってましたんで、怖い思いはゼロでした。ただ空港からゴルフ場に向かうときに、車内から「このあたりは危なそうだな」と感じた場所はありましたけどね。

 ゴルフ競技は4日間72ホールのストローク戦。ツアーと同じ個人戦ですね。日本からは男女とも2選手が出たので、一人のラウンドを追いかけてると、もう一人が見られません。なんとかうまく二人を行き来して、拍手したり声を出したりして盛り上げました。ヘッドコーチといってもそれしかできないんですよね。

 ゴルフ場はほぼ完璧な状態で、天気も男子の方は少し悪かったですけど、さほどひどい感じにもならなかった。そういう意味ではトーナメントとしては、すごくよかったんじゃないかなと思います。

 男子が先にあり、ジャスティン・ローズ(英)とヘンリック・ステンソン(スウェーデン)が最終日最終組で、首位で並んで18番を迎えました。ローズがバーディー、ステンソンがボギーで決着。銅メダルはマット・クーチャー(米)。さすがに世界ランキング上位がメダルを持っていきましたね。

 日本勢は池田勇太(30)が74、69、69、69の通算3アンダーで21位。片山晋呉(43)は74、75、77、66の通算8オーバーで54位でした。二人とも初日にたたいたのが響きました。

 晋呉は自分のリズムでゴルフができないまま進んでいった。最終日は意地を見せましたけどね。勇太にしても初日にもう少し抑えられてれば。それでも苦しい中、緊張感のある中、最後はだいぶ盛り返してくれました。最終日は一時6位タイだったので、一瞬メダルが見えたんですけど、14番以降で落とし穴につかまったのが残念ですね。

 
 ただ男子は世界のトップ選手たちがたくさん欠場する中、二人ともオリンピックに前向きな姿勢を発信しながら最後までプレーしてくれたことには、感謝したいと思いますね。彼らは若い頃から日の丸を背負って戦ってきた経験があるから、オリンピックを大事にするスピリットがあったんだと思います。

 女子は金メダルが朴仁妃(韓)、銀がリディア・コー(ニュージーランド)、銅がフォン・シャンシャン(中)でした。

 日本勢ではまず、野村敏京(はるきょう・23)が4位に入りました。69、69、72、65の通算9アンダー。ホールアウト時点では3位だったんですけど、結局3位に1打差の4位。それでも淡々とプレーし続ける姿が心強かったし、最後までポジティブに、「いける」と思ってやってくれた。すごく頼もしい姿を見せてもらって、ヘッドコーチとしてありがたかったです。

 アメリカを主戦場にしてやってる経験値が生きました。女子にしては珍しくいろんな球筋を持ってるなと思いました。彼女自身もコメントしてますけど、ツアーなら3位も4位もそう変わらない。でもオリンピックは全然違う。この1打の重みは、僕らが思う以上に、彼女自身が感じてるでしょうね。

 大山志保(39)は70、71、77、74の通算8オーバーで42位でした。彼女は非常に不安を持ってリオに入ったと思うんですね。まずは首の調子がよくなかったという不安、なおかつ4月下旬のツアーで優勝したあと、体のこともあって調子を落としてしまったと。自分の感覚を取り戻せないままリオのコースに立ってしまった部分があるんでしょう。ゴルフってのは調整が難しいスポーツなんで、彼女の場合は歯車がかみ合わなかったのかなという気がします。

 ギャラリーは、男子は初日から6千人、最終日は1万2千人のチケットが完売ということで、成功だったのかなという気はします。女子はもともと男子より人気は劣る上に、男子の翌週にあったから、ちょっとギャラリーは少なかったですね。スケジュールに余裕があるなら、女子が先の方がよりよかったのかなという気はします。

 
 でもね、珍客はいっぱいいましたよ! ワニ、フクロウ、カピバラ、サル、ハゲタカ、トカゲ、ヘビ……。もうほんと、動物園だかゴルフ場だかわかんない。野村敏京が1番のグリーンにいたら、カピバラがグリーンの真横まで来て、「あれ、これ空気違うなあ」みたいな感じで戻っていきました。ハハハ。あれは面白かったです。カピバラなりに空気読んでましたよ。「あれ、邪魔かな?」みたいな顔してましたもん。コース周りはほのぼのとして楽しかったです。

 リオで112年ぶりに復活したゴルフ競技は、4年後の東京オリンピック以降はどうなるか決まってません。だから東京でどう盛り上げるかが大事になってきます。東京が安全なのは分かってますから、リオのように辞退者が続出するってことはないでしょう。今回だって結局何事もなかったので、辞退者のコメントを見てても若干の後悔が感じられますもんね。東京では欠席者なしのトップレベルの争いが見たいです。

 盛り上がるためにはやはり、ストローク戦でなく団体戦を導入した方がいいでしょうね。団体戦なら選手がバラバラにならないから、たとえば日本を応援したいギャラリーの方はずっと日本チームについて回れる。選手も国を背負ってる意識が高まって、モチベーションがかなり上がるはずです。

 僕自身、東京でもヘッドコーチをするのかどうかは分かりませんけど、もちろん興味はあります。一つ言わせてもらうと、選手選考はできれば半年前、少なくとも3カ月前には決まった方がいいと思いますね。今回のように1カ月前ではね。団体戦でやるなら余計に早く決めてもらって、「チーム」としての一体感をつくっていかなきゃだめですからね。

 何はともあれ、初めてオリンピックに関わらせてもらって光栄でした。選手ではなかったですけど、僕のゴルフ人生の中で一つの大きな柱になります。

 ありがとう、リオ!

週刊朝日 2016年9月9日号