原因は“脳の錯覚”だった!?(※イメージ)
原因は“脳の錯覚”だった!?(※イメージ)
この記事の写真をすべて見る

 厚生労働省によると、腰痛を抱える患者は2800万人。整形外科やマッサージ、鍼灸などに通ったり、症状が改善せずドクターショッピングを繰り返したりするケースも多い。だが、その原因が腰ではなく、ほかにあったとしたら──。腰痛持ち必見、痛みの真実がいま明かされる。

「私たち整形外科医は、慢性腰痛(3カ月以上続く腰痛)は“腰”という局所の痛みだと教わり、長らくそれを根拠に診察してきた。ところが、脊椎の変形などを手術などで治しても、一向に痛みが改善しない患者さんが少なくないのです」

 開口一番そう話すのは、『長引く腰痛は“脳の錯覚”だった』(朝日新聞出版)を監修した福島県立医科大学理事長兼学長の菊地臣一医師だ。30年ほど前の、自身の苦い経験を振り返る。

「第四腰椎のすべり変形のある腰痛患者さんがいて、当時の最新技術を駆使し、固定術を行いました。手応えもあり、手術後の画像を見ても完璧でしたが、その患者さんは『痛みがちっとも治まらない』と私に言ってくる。結局、別の病気で亡くなるまで、腰痛に苦しまれました」

 それ以降ずっと「腰痛=腰だけの問題ではない」と考えていた菊地医師。1992年に報告されたノルウェーの大規模な疫学調査で、それは確信に変わった。腰の変形など整形外科医が画像上「異常」としてきた状態が、腰痛のない人にも見られることがわかったのだ。2002年にはスイスの研究で、椎間板の変形は10代半ばの健康体でも生じることも確認された。

 腰痛には原因や部位が明らかなものと、診察や検査で特定できないものがある。慢性腰痛の多くは後者だ。

「急性腰痛をこじらせたのが慢性腰痛だと考える患者さんが多いのですが、実はそういうケースはまれです。“急性腰痛をきっかけに別の要素が加わり、痛みが改善しにくくなった状態”というのが、慢性腰痛に対する最新の考え方です」

 と話すのは、同大病院整形外科教授の大谷晃司医師だ。脳科学と画像検査の進歩で、慢性腰痛の原因は“脳の錯覚”にあることがわかってきたのだという。

次のページ